「派遣先の総務に年末調整の書類を出せばいいんですよね」
「年の途中で派遣会社を乗り換えたら、前の会社の源泉徴収票はどうすればいいの」
大手派遣会社(テンプスタッフ、スタッフサービス、アデコ、パソナ、リクルートスタッフィングなど)に登録して働く派遣社員や、有期契約で働く契約社員にとって、11月から12月にかけての年末調整の時期は、書類の提出先で迷いやすいタイミングです。毎日通っているのは派遣先のオフィスなのに、給料の明細に印字されているのは派遣会社の名前という、二重構造がそもそもの分かりにくさの原因になっています。
この記事では、派遣社員の年末調整の提出先を法律上の根拠から整理したうえで、派遣会社を乗り換えた場合の前職源泉徴収票の合算方法、複数の派遣会社を同時に掛け持ちしている場合の扱い、12月末に契約満了で無職になった場合の還付申告、契約社員と正社員の手続きの違いまで、国税庁と厚生労働省の公式情報にもとづいて整理しました。
1. 結論、派遣社員の年末調整の提出先は「派遣元」一択

派遣社員の年末調整は、実際に机を並べて働いている派遣先の企業ではなく、雇用契約を結び給料を支払っている派遣元(人材派遣会社)に対して行います。派遣先の総務や人事に年末調整の書類を提出することは一切ありません。
【厚生労働省の公式見解・1次情報】
厚生労働省「派遣元事業主・派遣先の皆様」では、労働者派遣法における派遣元事業主の立場について次のように説明しています。
『派遣元事業主と派遣労働者は、派遣労働者の雇用主として賃金支払等の責任を担う』
出典:厚生労働省「派遣元事業主・派遣先の皆様」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/02.html
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁法令解釈通達「法第190条《年末調整》関係」では、給与の支払者にその年最後の給与の支払の際に年間の所得税額を計算し直し、過不足を精算する年末調整を行う義務があることが定められています。派遣社員に対して給与を実際に支払っているのは派遣先ではなく派遣元であるため、この年末調整の実施義務者は派遣元となります。
出典:国税庁「法第190条《年末調整》関係」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/32/01.htm、e-Gov法令検索「所得税法」(昭和40年法律第33号)第190条 https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033
派遣元と派遣先、法律上の役割の違い
雇用契約と指揮命令関係が分かれているのが労働者派遣の仕組みで、年末調整に関わるのは雇用契約を結んでいる派遣元だけです。
| 立場 | 法律上の役割 | 年末調整との関係 |
|---|---|---|
| 派遣元(人材派遣会社) | 雇用主、給与の支払者 | 年末調整の書類提出先。WEBマイページ等で手続きする |
| 派遣先(実際の勤務先) | 指揮命令関係のみ | 年末調整の手続きは一切不要 |
現在の大手派遣会社の多くは、スタッフ専用のWEBマイページから電子申請で年末調整を完結できる仕組みを導入しているため、スマートフォンからでも数分で入力を終えられます。
#### 【現場のリアル】派遣先の総務窓口で書類を突き返された話
11月の終業間際、17時40分ごろに派遣先の総務窓口に立ち寄り、派遣元のマイページから印刷した年末調整の申告書を差し出した方の話です。窓口の担当者は書類を一瞥した後、「申し訳ないのですが、これはうちでは処理できないんです」と困ったような表情を浮かべたといいます。派遣先の総務は正社員やパート従業員の給与計算しか扱っておらず、そこに在籍していない派遣スタッフの書類は受け付けようがなかったのです。
書類を手に戻ったエレベーターホールで、恥ずかしさを感じながら派遣会社の担当コーディネーターに電話をかけたところ、「年末調整はマイページから提出するので、派遣先には出さなくて大丈夫ですよ」と拍子抜けするほどあっさり案内されたそうです。本人は「同じ職場で働いているから、書類も職場に出すものだと思い込んでいた」と振り返っており、雇用主と勤務先が分かれている派遣という働き方特有の勘違いだったと話していました。
2. 派遣会社を乗り換えた場合、前職の源泉徴収票を合算するルール
年の途中で派遣会社Aから派遣会社Bへ移籍した場合は、Aから発行された源泉徴収票をBに提出することで、両方の給与を合算した年末調整をBが行ってくれます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2674 中途就職者の年末調整」では、次のように説明しています。
『別の会社などから支払を受けた給与の金額やその給与から徴収された所得税や社会保険料の額を確認します。この確認は、その人がほかの会社などから交付を受けた「給与所得の源泉徴収票」などで行います』
なお、前職の源泉徴収票による金額確認ができない場合は、現在の勤務先で年末調整を行うことができません。
出典:国税庁タックスアンサー「No.2674 中途就職者の年末調整」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2674.htm
合算のための3ステップ
前の派遣会社から源泉徴収票を取り寄せ、今の派遣会社に提出するという2往復の手続きだけで完結します。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ステップ1 | 前の派遣会社Aから「給与所得の源泉徴収票」を取り寄せる(WEBマイページからダウンロードできる会社も多い) |
| ステップ2 | 現在の派遣会社Bの年末調整画面で「前職あり」を選択し、源泉徴収票に記載された金額を入力する |
| ステップ3 | 源泉徴収票の原本またはPDFを現在の派遣会社Bへ提出する |
この3ステップを踏めば、派遣会社Bが会社Aの給与も含めて合算した年末調整を行い、12月の給与または翌月の給与で税金がまとめて還付されます。前の派遣会社に源泉徴収票を請求できるのは在籍中に限らず、退職後であっても発行義務があるため、連絡をためらう必要はありません。
#### 【現場のリアル】前職の派遣会社への連絡をためらった話
9月に派遣会社Aを辞めて派遣会社Bに登録し直した方の話です。11月にBのマイページで年末調整の入力画面を開いたところ「前職あり」の欄が表示され、Aに源泉徴収票を請求しなければならないと分かったものの、担当コーディネーターとのやり取りがあまり良い形で終わっていなかったこともあり、電話をかけるのがどうにも気が重かったといいます。何日か画面を開いては閉じるを繰り返し、結局提出期限の3日前になってようやく意を決してAに電話をかけたそうです。
電話口の担当者は特に気まずい様子もなく「源泉徴収票ですね、郵送とメール添付どちらがいいですか」と事務的に対応してくれ、拍子抜けするほど早く話がまとまったといいます。本人は「辞めた後だから連絡しづらいと勝手に思い込んでいたが、向こうにとっては日常業務のひとつでしかなかった」と話しており、退職の経緯にかかわらず源泉徴収票の発行請求は普通の事務手続きとして進めればよいと実感したそうです。
3. 複数の派遣会社を同時に掛け持ちしている場合の甲欄・乙欄

同時に2社以上の派遣会社から給与を受け取っている場合は、収入が最も多いメインの1社にだけ「扶養控除等申告書」を提出して年末調整(甲欄)を受け、他の派遣会社には提出せず(乙欄)、翌年に自分で確定申告して全社分を合算精算します。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」では、次のように説明しています。
『主たる給与とは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う給与をいい、主たる給与を支払う場合の源泉徴収税額は、税額表の「甲欄」で求めます。従たる給与とは、主たる給与の支払者以外の給与の支払者が支払う給与をいい、従たる給与を支払う場合の源泉徴収税額は、税額表の「乙欄」で求めます』
この「扶養控除等申告書」の提出先を1か所に限る仕組みは、所得税法第194条に定める給与所得者の扶養控除等申告書の規定にもとづきます。
出典:国税庁タックスアンサー「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2520.htm
甲欄と乙欄、それぞれの扱いの違い
扶養控除等申告書をどちらに出すかで、天引きされる税率と年末調整の要否がまったく変わります。
| 項目 | 甲欄(メインの1社) | 乙欄(サブの派遣会社) |
|---|---|---|
| 扶養控除等申告書 | 提出する | 提出しない |
| 源泉徴収の税率 | 各種控除を反映した税額表を適用 | 控除なしの高い税率で徴収される |
| 年末調整 | メインの派遣会社が実施 | 実施されない |
| 精算方法 | 12月の給与でメイン分は精算済み | 翌年、確定申告で全社分を合算し還付を受ける |
サブの派遣会社では控除のない高い税率で源泉徴収され続けるため、確定申告をしないまま放置すると、本来戻ってくるはずの税金を取りこぼすことになります。
#### 【現場のリアル】掛け持ち先の源泉徴収票の合算で戸惑った話
平日は派遣会社Aの案件、週末は派遣会社Bの短期案件という形で1年間掛け持ちしていた方の話です。年明けにAとBそれぞれから源泉徴収票が届いたものの、Aの分はすでに年末調整が済んで還付金も反映されているのに対し、Bの分は年末調整の欄が空欄のままになっており、「この2枚をどう扱えばいいのか分からない」と混乱したそうです。区役所の申告相談会場に2枚の源泉徴収票を持参し、順番待ちの列で1時間ほど待った末に窓口の職員に確認したところ、「Aの分は年末調整済みなのでそのまま、Bの分は乙欄で高めに引かれている分を確定申告で戻す形になります」と説明を受け、ようやく仕組みを理解できたといいます。
本人は「2枚とも同じ源泉徴収票なのに扱いがまったく違うと知らず、去年までは掛け持ち分の申告をせずに数万円を取りこぼしていたかもしれない」と話しており、複数の派遣会社に登録している人ほど、確定申告の要否を毎年きちんと確認する必要があると実感したそうです。
4. 12月末で契約満了、無職になった場合の還付申告
12月31日時点でどの派遣会社にも在籍していない場合、派遣会社での年末調整は行われないため、受け取った源泉徴収票をもとに自分で還付申告を行います。還付申告は翌年1月1日から提出でき、通常の確定申告期間である2月16日を待つ必要はありません。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2030 還付申告」では、提出時期について次のように説明しています。
『還付申告書は、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます』
出典:国税庁タックスアンサー「No.2030 還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
還付申告の提出期間と必要なもの
年末調整を受けられなかった分の所得税は、確定申告の一般的な受付開始日を待たずに取り戻せます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出できる期間 | 翌年1月1日から5年間(2月16日を待つ必要はない) |
| 必要書類 | 派遣会社発行の「給与所得の源泉徴収票」、マイナンバー確認書類、本人確認書類 |
| 提出方法 | 住所地を管轄する税務署の窓口、郵送、またはe-Tax |
| 還付されるもの | 給与から源泉徴収されすぎていた所得税 |
11月や12月に契約が満了し、次の派遣先が年明けからしか決まっていないという場合でも、年をまたいだからといって還付申告ができなくなるわけではありません。5年以内であれば過去の年分もさかのぼって申告できます。
#### 【現場のリアル】契約満了後、確定申告を忘れかけていた話
11月末で派遣契約が満了し、次の仕事を探しながら年を越したある方の話です。年が明けてからも新しい派遣先を探すのに気を取られ、確定申告のことはすっかり頭から抜け落ちていたそうです。3月も終わりに近づいたころ、実家の親から「そういえば確定申告はしたのか、去年の年末で辞めたなら税金が戻ってくるんじゃないか」と何気なく聞かれ、そこで初めて自分が還付申告の対象だったことを思い出したといいます。
慌てて最後の派遣会社から源泉徴収票を取り寄せ、確定申告書等作成コーナーで入力してみたところ、数万円の還付金が算出されたそうです。本人は「確定申告は自営業やフリーランスがするものだと思い込んでいて、派遣で契約満了になっただけの自分には関係ないと勝手に判断していた」と話していました。還付申告には5年の猶予があるとはいえ、契約が切れた年の源泉徴収票は忘れないうちに手元に確保しておくと、後になって慌てずに済みます。
5. 契約社員の年末調整、正社員との違い

契約社員(有期雇用)は直接雇用のため、年末調整の手続きは正社員と全く同じです。雇用契約を結んでいる会社と実際に働いている会社が同一であり、派遣社員のような提出先の分岐は発生しません。
雇用形態別、年末調整の提出先の比較
雇用契約を結んでいる相手が誰かで提出先が決まるだけで、契約社員には派遣社員のような提出先の分岐は存在しません。
| 雇用形態 | 年末調整の提出先 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 派遣社員 | 派遣元(人材派遣会社) | 派遣先への提出は不要 |
| 契約社員(直接雇用) | 契約している会社そのもの | 正社員と全く同一の手続き |
| 正社員 | 勤務先そのもの | 基準となる標準的な手続き |
「契約社員だから何か特別な書類が必要なのでは」と身構える必要はなく、勤務先から配られる年末調整の申告書に、正社員と同じ要領で記入すれば手続きは完了します。有期契約であっても、年末時点でその会社に在籍していれば、勤続期間の長短にかかわらず年末調整の対象になります。
6. よくある質問(Q&A)
派遣社員・契約社員の年末調整について読者からよく寄せられる質問は、派遣先から書類を渡された場合の対応、マイページのログイン情報を忘れた場合、前職の源泉徴収票を紛失した場合、年末調整と確定申告の両方が必要になるケースの4点です。
読者からよく寄せられる4つの質問
結論だけ先に言うと、派遣先から渡された書類は返却してよく、マイページのIDは担当コーディネーターに連絡すれば再発行してもらえ、源泉徴収票の紛失は前の派遣会社に再発行を依頼すればよく、掛け持ちや退職のタイミングによっては年末調整と確定申告の両方が必要になることがあります。
| No. | 質問の要旨 | 結論(詳細は各項目を参照) |
|---|---|---|
| Q1 | 派遣先から年末調整の紙を渡された | 派遣先の書類なので「派遣元で手続きします」と伝えて返却してよい |
| Q2 | マイページのログインIDを忘れた | 担当コーディネーターやサポートデスクに連絡すれば再発行してもらえる |
| Q3 | 前職の源泉徴収票をなくした | 前の派遣会社に依頼すれば再発行してもらえる。退職後でも請求できる |
| Q4 | 年末調整と確定申告、両方必要なケースはあるか | 掛け持ちのサブ先分や、年の途中で無職になった期間がある場合は両方必要になりうる |
#### Q1. 派遣先から年末調整の紙を配られたのですがどうすればいいですか。
派遣先の正社員やパート従業員向けに配布された書類が、誤って派遣スタッフにも渡ってしまった可能性があります。「派遣社員なので派遣元で手続きします」と伝えて、記入せずにそのまま返却して問題ありません。
#### Q2. 派遣会社のマイページのログインIDを忘れてしまいました。
派遣会社の担当営業やスタッフサポートデスクへ連絡すれば、本人確認のうえで即日から数日以内に再発行してもらえるのが一般的です。年末調整の提出期限が迫っている場合は、その旨を伝えると対応を急いでもらえることがあります。
#### Q3. 前の派遣会社の源泉徴収票を紛失してしまいました。
前の派遣会社に連絡し、再発行を依頼してください。源泉徴収票の発行義務は退職者に対しても及ぶため、在籍していないことを理由に断られることはありません。WEBマイページから再ダウンロードできる会社もあります。
#### Q4. 年末調整と確定申告、両方とも行う必要があるケースはありますか。
あります。複数の派遣会社を掛け持ちしていてサブ先の分(乙欄)が年末調整されていない場合や、年の途中で無職の期間があり源泉徴収票の合算漏れがある場合は、メインの派遣会社での年末調整に加えて、翌年に自分で確定申告を行う必要があります。
まとめ、派遣社員の年末調整は「派遣元」に出せば迷わない
派遣社員の年末調整は、実際の勤務先である派遣先ではなく、雇用主として給与を支払っている派遣元に対して行います。派遣会社を乗り換えた場合は前職の源泉徴収票を今の派遣会社に提出すれば合算してもらえ、複数の派遣会社を掛け持ちしている場合はメインの1社で年末調整を受けたうえで翌年に確定申告を行います。12月末に契約が満了して無職になった場合も、還付申告は翌年1月1日から提出できるため、年明けを待って自分で税務署に申告すれば払いすぎた所得税が戻ってきます。契約社員は直接雇用のため、正社員と同じ手続きで迷う余地はありません。
提出先を勘違いして書類を出しそびれたり、合算の手続きを忘れて還付金を取りこぼしたりすることのないよう、派遣会社からの案内や源泉徴収票の到着タイミングを毎年きちんと確認しておくのが確実です。
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