「実家の親が年金をもらっているけれど、自分の年末調整で扶養に入れられる年収の上限はいくらなのか」と迷う人は多いはずです。「遺族年金や障害年金をもらっている母親は、年収制限に引っかかるのだろうか」と不安に思う人もいるでしょう。給与所得の「103万円の壁」は知っていても、年金生活の親の場合にどの数字を見ればいいのか分からない、という声もよく聞きます。
親の年金収入には「公的年金等控除」という給与所得控除とは別枠の経費控除が適用されるため、判定基準がまったく違います。しかも令和7年度税制改正で扶養親族の所得要件そのものが変わったため、以前の記事や知恵袋で見た「158万円」という数字のまま覚えていると、境界線を読み間違えてしまいます。この記事では、現行制度における「118万円と168万円の壁」の根拠から、課税年金と非課税年金の違い、年金とパートを両方もらっている親の合算計算、申告書の書き方までを、国税庁の公式情報にもとづいて整理します。
1. ひと目でわかる、親の年齢別「年金年収の壁」

まず、親の年齢による年金年収の上限を整理します。
| 親の年齢(12月31日時点) | 公的年金等控除額 | 扶養親族の所得要件 | 扶養に入れる年金年収の上限 | 月額の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 65歳未満の親 | 60万円 | 58万円以下 | 年収118万円以下 | 月額 約9.8万円以下 |
| 65歳以上の親 | 110万円 | 58万円以下 | 年収168万円以下 | 月額 14万円以下 |
$$\text{公的年金の雑所得} = \text{公的年金等の収入金額} - \text{公的年金等控除額}$$
親の合計所得金額が扶養親族の所得要件以下であれば、その子どもの扶養親族にできます。この所得要件は、令和7年度税制改正により「48万円以下」から「58万円以下」に引き上げられました。国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」によると、この改正は令和7年分以後の所得税について適用されます。出典:https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
このため、65歳以上の親であれば、公的年金等控除の最低額110万円とあわせて「年収168万円以下」、65歳未満の親であれば公的年金等控除60万円とあわせて「年収118万円以下」が新しい基準になります。以前の書籍やネット記事で見かける「158万円」「108万円」という数字は、令和6年分以前の旧基準です。今年の年末調整で申告する際は、必ず新しい数字で判定してください。
2. 課税される年金と非課税の年金の違い
親が受け取っている年金の種類によって、年収制限にカウントするものと、まったく無視できるものに分かれます。
課税年金(年収制限にカウントするもの)は、老齢基礎年金(国民年金)、老齢厚生年金(厚生年金)、企業年金(確定給付企業年金など)、iDeCo・確定拠出年金の年金受取です。国税庁タックスアンサー「No.1600 公的年金等の課税関係」に、公的年金等の範囲と雑所得の計算方法が定められています。出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
非課税年金(年収制限から完全に除外できるもの)は、遺族基礎年金・遺族厚生年金、障害基礎年金・障害厚生年金、寡婦年金です。遺族年金については、国税庁タックスアンサー「No.1605 遺族の方に支給される公的年金等」に、国民年金法や厚生年金保険法にもとづいて遺族に支給される年金は原則として所得税も相続税も課税されないと明記されています。出典:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1605.htm 障害年金についても、国民年金法第25条・厚生年金保険法第41条により非課税と定められており、所得税法第9条の非課税所得の考え方と合わせて、受給額をそのまま扶養判定の年収に含める必要はありません。
夫を亡くして遺族厚生年金を受け取っている母親の場合、遺族年金がどれだけ高額であっても税法上の所得はゼロとして扱われます。たとえば自身の老齢基礎年金が年60万円、亡き夫の遺族厚生年金が年140万円というケースでは、遺族厚生年金は非課税なので税務上の年金年収は60万円のみと計算します。65歳以上の基準である168万円を大きく下回るため、扶養に入れられる可能性が高いということになります。
現場ではこの非課税の扱いを知らないまま、何年も損をしている家庭が実は少なくありません。ある40代の会社員は、父を亡くした母が受け取る遺族厚生年金がおよそ年190万円あると聞き、当然基準額を超えているだろうと思い込んで、母を扶養に入れる申告を長年見送っていました。たまたま会社の総務担当者と雑談していて「遺族年金は非課税枠なので所得に入りませんよ」と言われ、青ざめたそうです。税金の還付を求める更正の請求は、国税通則法第23条により法定申告期限から原則5年以内であれば遡ることができるため、この会社員は過去数年分の源泉徴収票を引っ張り出して確定申告のやり直しに動くことになりました。年金の種類を正しく仕分けるだけで、こうした取りこぼしは防げます。
3. 親が「年金」と「パート・アルバイト」の両方をもらっている場合の合算判定

親が年金をもらいながら、シルバー人材センターや清掃・警備などのパートで働いている場合は、公的年金の雑所得と給与所得を合計して、扶養親族の所得要件(58万円以下)を満たすかどうかを判定します。
給与所得控除の最低保障額も、令和7年度税制改正で55万円から65万円に引き上げられています。たとえば65歳以上の親が年金120万円、パート収入80万円を得ているケースで計算すると、年金の雑所得は120万円から公的年金等控除110万円を引いた10万円、パートの給与所得は80万円から給与所得控除65万円を引いた15万円になり、合計所得金額は25万円です。58万円以下に収まっているため、扶養に入れることができます。
4. 親の年金額を調べる方法
親の正確な年金年収を確認するには、毎年1月中旬に日本年金機構から親宛てに送られてくる「公的年金等の源泉徴収票」(ハガキ形式)を見せてもらうのが一番確実です。ハガキの「支払金額」の欄に印字されている数字が、親の1年間の年金総支給額になります。
このハガキを巡っては、地味だけれど毎年どこかの家庭で起きているトラブルがあります。ある60代の父親は、年明けに届いた年金機構からのハガキを他の郵便物と一緒にまとめて片づけてしまい、息子が年末調整の書類を書く段階になって「あのハガキどこにやったっけ」と家中を探し回る羽目になりました。結局見つからず、日本年金機構の「ねんきんダイヤル」に電話して再発行を依頼したものの、再発行された書類が手元に届くまでに数日かかり、提出期限ぎりぎりの提出になったといいます。年金の源泉徴収票は捨てずに、確定申告や年末調整で使う他の書類とまとめて保管しておくことをお勧めします。
5. 年末調整「扶養控除等申告書」の書き方

親を扶養親族として申告する際は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「控除対象扶養親族」欄に記入します。65歳以上・年金年収140万円の母を例にすると、氏名とフリガナ、続柄(母)、生年月日、住所または居所を記入したうえで、70歳以上であれば老人扶養親族の該当欄にチェックを入れ、同居していなければ「その他」を選びます。所得の見積額の欄には、年金収入140万円から公的年金等控除110万円を差し引いた30万円(300,000円)を記入します。この金額はあくまで所得金額であり、年金の総支給額をそのまま書く欄ではない点を間違えやすいので注意してください。
6. よくある質問
親の年金が169万円と、1万円だけ168万円を超えてしまいました
残念ながら、1円でも基準を超えると扶養控除は受けられません。配偶者特別控除のような段階的な減額の仕組みは老人扶養親族には設けられていないため、168万円(合計所得金額58万円)を超えると控除額はゼロになります。
会社の健康保険証の扶養(社会保険の扶養)も同じ基準ですか
いいえ、社会保険の扶養基準は税制上の扶養控除とは別の制度です。全国健康保険協会や日本年金機構が示す認定基準では、60歳以上の親であれば年収180万円未満(かつ子の年収の半分未満)で健康保険の扶養に入れます。社会保険の扶養認定では遺族年金も収入に含めて判定される点が、税法上の扱いと大きく異なります。税金の扶養と社会保険の扶養は別々に判定する必要があるので、どちらの手続きをしているか意識しておいてください。
7. 親の年金受給額別・公的年金等雑所得の早見表(65歳以上)
親の受給年金額から、税法上の雑所得金額が一目でわかる換算表です。
| 親の年間年金受給額 | 公的年金等控除額 | 親の年金雑所得金額 | 扶養に入れるか |
|---|---|---|---|
| 110万円以下 | 110万円 | 0円 | 扶養可能(余裕でクリア) |
| 120万円 | 110万円 | 100,000円 | 扶養可能 |
| 130万円 | 110万円 | 200,000円 | 扶養可能 |
| 140万円 | 110万円 | 300,000円 | 扶養可能 |
| 150万円 | 110万円 | 400,000円 | 扶養可能 |
| 160万円 | 110万円 | 500,000円 | 扶養可能 |
| 168万円(限界ライン) | 110万円 | 580,000円 | 扶養可能(満額上限) |
| 170万円 | 110万円 | 600,000円 | 扶養不可(所得58万円超過) |
| 180万円 | 110万円 | 700,000円 | 扶養不可 |
| 200万円 | 110万円 | 900,000円 | 扶養不可 |
8. 個人年金保険や企業年金をもらっている親の合算注意点
親が民間の個人年金保険(生命保険会社の個人年金など)から年金を受け取っている場合、これは公的年金等控除の対象外です。国税庁タックスアンサー「No.1600 公的年金等の課税関係」が定義する公的年金等の範囲に、民間の個人年金保険は含まれません。個人年金収入から必要経費(支払保険料に対応する部分)を差し引いた金額が、そのまま雑所得として加算されます。公的年金の雑所得と民間個人年金の雑所得を合計した金額が58万円を超える場合は扶養に入れなくなるため、事前の確認が欠かせません。
9. ケーススタディ。父親(厚生年金210万円)と母親(国民年金78万円)の世帯判定
典型的な年金生活世帯における扶養判定の例です。両親ともに72歳、父親は元会社員で老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせて年210万円、母親は専業主婦で老齢基礎年金のみ年78万円を受け取っているとします。
父親は年金210万円から公的年金等控除110万円を引いた100万円が所得となり、58万円の要件を超えるため扶養には入れられません。母親は年金78万円が控除額110万円を下回るため所得はゼロ扱いとなり、168万円の基準を大きく下回るので扶養に入れられます。息子がこの母親だけを扶養親族として年末調整で申告した場合、息子の年収が700万円台で税率がおおよそ30パーセントの層であれば、別居の老人扶養親族の控除額48万円に税率を掛けた年間約14万4千円ほど、所得税と住民税をあわせて負担が軽くなる計算になります。同居していれば老人扶養親族の控除額は58万円に増えるため、軽減額もさらに大きくなります。
親の年金額と自分の収入によって控除額の効果は変わりますが、父親と母親を一緒くたに「両親とも扶養に入れられるはず」と決めつけず、ひとりずつ年金の種類と金額を確認することが、申告ミスを防ぐいちばんの近道です。
年金の種類の仕分けや所得の計算は、公的年金等控除の金額を毎年間違えずに当てはめる必要があり、手計算だとどうしても不安が残ります。『書けた年末調整』では、親の年金の種類と年間受給額を入力するだけで、その年の基準にもとづいて所得金額と扶養の可否を自動で計算します。
まとめ
65歳以上の親は年金年収168万円以下(月14万円以下)なら扶養に入れられます。65歳未満の親は年金年収118万円以下が基準です。これらの数字は令和7年度税制改正で48万円から58万円への所得要件引き上げを反映した現行の基準であり、以前の158万円・108万円という数字は令和6年分以前の旧基準になります。遺族年金・障害年金は全額非課税のため、所得計算に含めずに扶養に入れられます。年金とパートを両方もらっている親は、公的年金の雑所得と給与所得を別々に計算して合算し、58万円以下かどうかで判定してください。別居でも仕送りがあれば老人扶養控除は適用できます。
ご両親の年金の種類と金額を正しく把握し、受けられる控除を漏れなく申告して、家計の手取りを守りましょう。