実家で暮らす親を扶養に入れたいけれど、別居している場合は何をもって認められるのか分からない、という人は多いはずです。仕送りは手渡しではだめなのか、毎月いくら送れば税務署から確認が入らずに済むのか、と半信半疑のまま申告書を書いている人もいるでしょう。
離れて暮らす高齢の両親を年末調整で扶養親族(老人扶養控除)に入れる場合、同居している親であれば「同じ屋根の下で生活している」という事実だけで扶養関係が認められます。ところが別居している親については、生活費や療養費を継続的に仕送りして支えている客観的な証拠が求められます。これが「生計を一にする」の証明です。証拠が不十分なまま扶養控除だけ申告してしまうと、後になって税務署から確認が入り、過去にさかのぼって控除を取り消されるケースもあります。ここでは国税庁の通達にもとづいて、認められる仕送りの残し方と適正な金額の目安を整理します。
1. 「生計を一にする」の法律上の定義

【国税庁の公式見解・1次情報】
所得税基本通達2-47では、次のように定められています。
『勤務、修学、療養等の都合上、他の親族と日常の起居を共にしていない場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます』
出典:所得税基本通達2-47、国税庁「『生計を一にする』の意義」 https://www.keisan.nta.go.jp/r6yokuaru/cat2/cat22/cat22b/cid067.html
つまり、同居していなくても仕送りの実態があれば生計を一にしていると認められるということです。ただし、この「実態」を何で示すかが実務上の分かれ目になります。
同居している親族については、明らかに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、生計を一にするものとして扱われます。特別な証明を求められることはほとんどありません。一方、別居している親族については、送金の事実そのものが問われるため、記録に残る手段で仕送りをしていることが前提になります。
なお、老人扶養親族(その年12月31日時点で70歳以上の親)の控除額は、国税庁タックスアンサー「No.1180 扶養控除」のとおり、同居している場合は58万円(同居老親等)、別居している場合は48万円です。別居の親を扶養に入れる場合、控除額は48万円となります。出典:国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
2. 現場のリアル。手渡しの現金では説明できなかった話
「実家に帰省したとき、お盆と正月に現金で親に渡している」という人は少なくありません。ですが、これは税務署から仕送りの事実を確認できないと判断されやすい方法です。
ある40代の会社員は、74歳になる実家の母親(年金収入約80万円)を老人扶養親族として申告していました。仕送りの実態は、年に2回、お盆と正月に帰省した際に現金で15万円ずつ手渡しするというものです。数年後、税務署から扶養親族に関する確認の文書が届き、送金の記録を求められました。手元にあったのは家計簿に書いた「母に15万円渡した」というメモだけで、銀行の記録も現金書留の控えもありません。結果として、客観的な送金記録が存在せず生活費支援の継続性が確認できないと判断され、過去3年分の扶養控除が取り消されました。本税に延滞税・加算税を加えると、追徴額は約45万円にのぼったといいます。
いつ、いくら、誰から誰へ渡ったのかという記録が第三者の帳簿に残らない現金手渡しは、親が本当に生活費として使ったのか、単なる帰省土産や一時的な贈与だったのかを税務署側が判断できません。仕送りは銀行口座への振込で行うのが実務上の基本です。
3. 証拠が残る仕送りの方法

税務署から確認が入った場合に説明できるよう、日頃から次のような形で記録を残しておくと安心です。
- 自分名義の銀行口座(ネット銀行・都市銀行など)を用意する
- 親名義の銀行口座へ、毎月または隔月など決まった頻度で振り込む
- 振込時の摘要欄に「生活費仕送り」などのメモを入れておく
- 振込明細やネットバンキングの送金履歴、通帳記帳の記録を保管しておく
親にあなた名義のクレジットカードの家族カードを渡し、日々の食料品代や病院代をそのカードで決済してもらい、自分の口座から引き落とす形にしている場合も、カードの利用明細がそのまま生活費支援の実績として使えます。口座振替で光熱費や実家の固定資産税を自分の口座から直接負担している場合も同様に、通帳記録や明細書が生計同一の証拠になります。
4. 仕送りの適正金額と頻度の目安
親にいくら送れば税務署から確認が入らずに済むのか、という質問をよく受けます。法律で金額が明記されているわけではありませんが、実務上の目安は次のとおりです。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 送金の頻度 | 毎月、または2ヶ月に1回程度 |
| 1回あたりの送金額 | 2万円〜3万円程度 |
| 年間の送金合計 | 20万円〜30万円程度 |
親の年金受給額にもよりますが、生活費の一部を実質的に支えていると認められる水準として、年間20万円から30万円程度の送金実績があると安心です。12月にまとめて1年分を送るような帳尻合わせではなく、年間を通じて定期的に送金している実態が重要になります。
5. 現場のリアル。毎月の自動送金で認められた父親

先ほどの会社員とは別に、実家の父親(72歳・年金収入約130万円)を老人扶養親族として申告していた40代の会社員のケースです。この人はネット銀行の定額自動振込機能を使い、毎月28日に父親名義のゆうちょ口座へ3万円を自動送金する仕組みを組んでいました。同じように税務署から扶養親族についての確認が届きましたが、通帳の記録と振込明細をそのまま提出したところ、毎月継続的な生活支援が行われていると確認され、48万円の控除がそのまま認められました。
2人の違いは、送金額の多寡ではなく、記録として残る手段を使っていたかどうかにあります。振込であれば銀行に記録が残るため、後から証明する必要が生じても慌てずに対応できます。
6. 送金アプリでの仕送りは認められるか
PayPayやLINE Payなどのスマホ決済アプリの送金機能を使った仕送りについては、送金日時・金額・受取人名義が明確に確認できる取引履歴が残っていれば、生計同一を示す補足的な証拠として扱われることがあります。ただし、銀行振込に比べると実務上の確実性は下がるため、基本は銀行振込を軸にし、送金アプリはあくまで補助的な手段と考えておくのが無難です。高齢の親がアプリの残高を現金化せず、日用品の決済などに実際に使っている実態も併せて必要になります。
7. 税務署から「お尋ね」が届いたときの対応
税務署から会社経由または自宅へ、扶養親族の生計同一に関する確認の文書が届くことがあります。落ち着いて次の手順で対応すれば問題ありません。
同封されている回答書を用意し、過去1年分の銀行振込明細のコピー、または通帳記帳のコピー(該当する送金部分にマーカーを引いたもの)を添付します。支援の目的欄には「生活費および通院治療費の継続的支援のため」など、簡潔に事実を記載します。指定された期日までに、返信用封筒で税務署へ返送すれば手続きは完了です。銀行振込の記録がそろっていれば、多くの場合はそのまま確認が済み、追徴課税に至ることはありません。
8. 別居親への仕送りで押さえておきたい3点
- 送金人名義(あなた)と受取人名義(親)が一致する銀行振込の記録を残すこと
- 親の年金受給額や実家の生活費水準を踏まえ、年間20万円から30万円程度の実質的な生活支援を行うこと
- 12月にまとめて1回だけ送金するのではなく、年間を通じて定期的に送金すること
この3点を押さえておけば、扶養控除の申告内容について後から確認が入っても、慌てず説明できます。
9. よくある質問
年末調整の書類を会社に出す際、仕送りの振込明細を会社に提出する必要はありますか
国内に住む親であれば、会社への提出義務はありません。扶養控除等申告書に親の氏名や住所を記入して提出すれば、会社側で処理は完了します。ただし、後日税務署から確認が入った場合に備えて、振込明細や通帳のコピーは手元に少なくとも5年間は保管しておいてください。
親名義の光熱費や実家の固定資産税を自分の口座から引き落としていますが、これも仕送りと認められますか
認められます。親の生活インフラにかかる費用を直接負担していることも、生計を一にしていることを示す有力な証拠になります。口座振替の通帳記録や明細書を保管しておきましょう。
別居している親と同居している親では、証明のハードルはどれくらい違いますか
同居している親については、明らかに独立した生計を営んでいると認められる場合を除き、特別な証明なしに生計同一が認められます。別居している親については、常に生活費や療養費の送金が行われている実態を示す必要があり、その分だけ振込記録の保管が重要になります。
まとめ
別居している親を老人扶養控除の対象にするには、所得税基本通達2-47にもとづき、定期的な仕送りの客観的な証拠が必要です。手渡しの現金は記録が残らず税務署から認められにくいため、月2万円から3万円を目安に銀行振込で送り、振込明細やネットバンキングの履歴を保管しておくことが実務上の基本になります。家族カードでの生活費決済や光熱費の肩代わりも、あわせて有効な証拠になります。
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