「年末調整の書類、提出期限を過ぎてしまった」
「総務から『まだですか』と催促のメールが来て、正直めちゃくちゃ焦っている」
11月から12月にかけての総務・経理担当者は、決算前の繁忙期と重なって最も殺気立つ時期です。そのタイミングで書類を出しそびれると、担当者から返ってくる言葉は決して優しくありません。ただ、結論を先に言っておくと、会社の締切に間に合わなかったからといって、払いすぎた税金が戻ってこなくなるわけではありません。取り返す道はちゃんと用意されています。まずは何が起きていて、どこまでなら間に合うのかを、順番に整理していきます。
1. 会社の締切と、税務署への本当の期限は別物

多くの会社が年末調整の書類提出を「11月中旬〜下旬まで」に設定しています。ただ、この日付は法律で決まっているものではなく、会社側が給与計算ソフトへの入力や年末調整の計算作業を年内に終わらせるために、逆算して決めている社内ルールにすぎません。
では、法律上の本当の期限はいつなのか。会社が源泉徴収票や法定調書を税務署に提出する義務については、国税庁が次のように定めています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.7400 法定調書の提出義務者」では、法定調書の提出期限について次のように明記されています。
『法定調書は、原則としてその法定調書に記載すべき支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに提出しなければなりません』
出典:国税庁 タックスアンサー No.7400「法定調書の提出義務者」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7400.htm
「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」もこの法定調書の一種で、税務署への提出期限は翌年1月31日です。つまり会社が本当に守らなければならない締切は1月末であり、社内の11月締切はその手前に設けられた事務作業用のバッファにすぎません。ここを知っているかどうかで、期限を過ぎたときの動き方はまったく変わってきます。
【現場のリアル】総務に「もう間に合いません」と言われて青ざめた話
ある食品メーカーで働く30代の社員は、扶養控除等申告書の提出をすっかり忘れたまま12月に入り、給与担当から「今月中に出してもらえないと年末調整に反映できません」と告げられました。慌てて書類を持っていったところ、担当者からは「うちは給与計算システムへの入力を12月20日で締めているので、今からだと今年の年末調整には間に合わせられません」と返されたそうです。ここで多くの人が「もう税金は戻ってこないんだ」と思い込んで諦めてしまうのですが、実際にはこの後に紹介する確定申告(還付申告)というルートが残っています。担当者の「間に合いません」は「会社側の処理には間に合わない」という意味であって、「控除を一切受けられなくなる」という意味ではないのです。この違いを知らずに落ち込む人が、現場では毎年一定数いるといいます。
2. 年末調整に反映されないと、何が起きるのか
年末調整という手続きの中身を、国税庁は次のように説明しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2662 年末調整のしかた」では、次のように説明されています。
『給与の支払者は、給与所得者の扶養控除等申告書を提出している人について、その年最後に給与の支払をする際に、年間の給与総額に対する年税額と、その年中に源泉徴収した税額の合計額とを比べて、過不足額を精算します。この手続を年末調整といいます』
出典:国税庁 タックスアンサー No.2662「年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
毎月の給料から天引きされている所得税は、あくまで概算です。生命保険料控除や扶養控除、配偶者控除といった個々の事情は、この精算作業の中で反映されて初めて正しい税額に落ち着きます。書類の提出が間に合わず年末調整が「未済」のまま12月の給与を迎えると、会社はこの精算を行わず、概算のまま源泉徴収票を発行することになります。結果として起きるのは次の二つです。
- 本来受けられるはずだった控除が反映されず、払いすぎた所得税がそのまま戻ってこない
- 所得税の金額をもとに計算される翌年6月からの住民税も、控除なしの高い所得のまま算出されてしまう
【現場のリアル】12月の給与明細を開いて還付金が0円だった絶望
生命保険に3本加入し、iDeCoも続けている40代の会社員は、保険料控除証明書をどこかに紛失したまま提出期限を迎えてしまいました。例年なら数万円単位で還付があった人なので、12月の給与明細を開いた瞬間、還付欄の数字が0円になっているのを見て青ざめたと話していました。慌てて経理に問い合わせたところ「今年の分は年末調整に反映できていません。確定申告で対応してください」と案内され、結局翌年の確定申告シーズンまで数か月待つことになったそうです。金額そのものは還付申告で取り戻せたものの、「毎年12月に振り込まれると思っていたお金が、翌春まで持ち越しになる」という時間的な痛手は想像以上だったといいます。控除証明書は届いたその日にクリアファイルへ入れる、これだけで防げたトラブルでした。
3. 手遅れに気づいたら、まず何をすべきか

まずは会社の担当者に正直に相談する
期限を過ぎたことに気づいたら、黙っているのが一番良くありません。総務や人事の担当者に「提出が遅れてしまいました、まだ間に合いますか」と正直に伝えましょう。前述のとおり会社が本当に守るべき期限は翌年1月31日なので、社内締切から数日〜1週間程度であれば、担当者の判断で「今からでも計算し直せる」と対応してもらえるケースは珍しくありません。特に給与計算をまだ税務署への提出準備段階まで進めていない小規模な会社ほど、柔軟に対応してもらいやすい傾向があります。逆に、大企業や給与計算をアウトソーシングしている会社では、システムの締め処理が早い段階で完全に固定されてしまい、数日の遅れでも受け付けてもらえないことがあります。相談する際は「いつまでなら間に合いますか」と具体的な日付を確認しておくと、その後の動き方が決めやすくなります。
会社で対応できないと言われたら、自分で確定申告(還付申告)をする
会社側から「もう給与システムの締めが終わっているので対応できません」と言われた場合は、自分で確定申告をすれば控除を反映できます。国税庁は確定申告の期間を次のように定めています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2020 確定申告」によると、確定申告の期間は次のとおりです。
『原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までの間に、確定申告書を提出するとともに、源泉徴収された税金や予定納税額などがある場合には、正しい税額との差額を精算します』
出典:国税庁 タックスアンサー No.2020「確定申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2020.htm
ただし、年末調整の反映漏れを取り戻すためだけに行う申告は、税法上「還付申告」という別の扱いになります。国税庁は還付申告について次のように案内しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2030 還付申告」では、次のように説明されています。
『還付申告書は、その年分の確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます』
出典:国税庁 タックスアンサー No.2030「還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
ここが多くの人が誤解しているポイントです。給与以外に申告すべき所得がなく、単に年末調整で反映しそびれた控除を取り戻すだけであれば、確定申告の窓口が混み合う2月16日から3月15日を待つ必要はありません。年が明けた1月1日以降であれば、税務署が開いているタイミングでいつでも提出できます。実際、確定申告会場が混雑する時期を避けて1月のうちに済ませてしまう人も少なくありません。
4. 過去の年末調整の申告漏れも、5年分さかのぼれる
「一昨年、生命保険のハガキを出し忘れていた」「数年前に結婚したのに配偶者控除の手続きをしていなかった」というように、過去の年末調整での記入漏れに後から気づくこともあります。この場合も、前述の還付申告の仕組みがそのまま使えます。翌年1月1日から5年間という期間は、その年ごとに独立してカウントされるため、たとえば令和3年分であれば令和8年12月31日まで、令和4年分であれば令和9年12月31日まで申告が可能です(国税庁タックスアンサー No.2030)。年数が経つほど手元に残っている書類が少なくなるので、気づいた時点でできるだけ早く着手するのが得策です。
【現場のリアル】3年前の医療費控除を還付申告で取り戻した話
出産費用がかさんだ年に医療費控除の申告を忘れていたという30代の主婦の方は、3年後にたまたま当時の領収書の束を見つけたことがきっかけで還付申告に踏み切りました。当時の源泉徴収票はすでに手元になかったものの、勤務先に連絡すると再発行に対応してもらえ、医療機関の領収書と合わせて税務署の窓口へ持参。担当者いわく、還付申告は確定申告シーズンほど窓口が混まないため、平日の午前中であれば1時間程度で相談から提出まで終えられることが多いそうです。結果として数万円が指定口座に振り込まれたとのことでした。「もっと早く気づいていれば」という後悔はあったものの、5年以内であれば取り戻せるという事実を知らなかったら、そのまま泣き寝入りしていたと話していました。
5. 自分で確定申告(還付申告)をする場合に用意するもの

用意する書類は次のとおりです。
- 源泉徴収票(会社から12月〜1月頃に発行されます)
- 各種控除証明書(生命保険、地震保険、iDeCo、住宅ローンの残高証明書など)
- マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カードと身分証明書)
- 還付金の振込先になる本人名義の銀行口座情報
過去の年分について源泉徴収票を紛失している場合は、当時の勤務先の給与担当窓口に連絡すれば再発行してもらえます。在職中であれば社内システムから、退職している場合は当時の総務・人事宛に問い合わせるのが確実です。
スマホでの申告手順(e-Tax)
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、スマートフォンから手続きが完結します。
- 国税庁のサイトにアクセスし、「作成開始」をタップする
- 源泉徴収票をスマホのカメラで撮影すると、給与額などが自動入力される(項目によっては手入力が必要)
- 生命保険料控除など、各種控除証明書の金額を入力する
- マイナンバーカードをスマホで読み取り、e-Taxで送信する
税務署の窓口に行かず、郵送の手間もかけずに提出まで終えられます。提出後、還付金が指定口座に振り込まれるまでは、おおむね1か月から1か月半ほどかかります。
6. 来年はそもそも焦らないために
ここまで読んで「毎年ギリギリになって同じように焦っている」と心当たりのある方も多いはずです。年末調整の書類は項目数が多いうえに、保険料控除の計算方法や記入欄の対応関係が分かりにくく、後回しにしているうちに期限を過ぎてしまうケースが後を絶ちません。
そうした計算や書類作成の手間を減らしたい場合は、スマホで質問に答えるだけで年末調整の書類が仕上がる『書けた年末調整』のようなツールを使う方法もあります。控除額の計算式を覚えていなくても、画面の質問に沿って入力していけば自動で計算が完了し、会社に提出する形式で書類が仕上がります。毎年の手書き作業と、締切前日に慌てて計算し直す時間を減らせるはずです。
無料で申告書を作成してみるまとめ
- 会社の11月締切はあくまで社内ルール、税務署への法定期限は翌年1月31日(国税庁タックスアンサー No.7400)
- 会社の年末調整に間に合わなくても、控除がなくなるわけではない。まずは担当者に「いつまでなら間に合うか」を確認する
- 会社で対応できない場合は、自分で確定申告(還付申告)をすれば同じ控除を反映できる(国税庁タックスアンサー No.2020)
- 年末調整の反映漏れだけを取り戻す還付申告は、確定申告期間を待たず翌年1月1日から提出できる(国税庁タックスアンサー No.2030)
- 過去の申告漏れも、その年の翌年1月1日から5年間さかのぼって還付申告が可能
期限を過ぎたと気づいた瞬間は焦るものですが、制度上の逃げ道はきちんと用意されています。慌てて何もしないまま放置することだけは避けて、まず担当者への一本の連絡から動き出しましょう。