「毎年なんとなく年末調整の書類を出しているけれど、これで本当に損していないのか分からない」
「住宅ローン控除やiDeCo、親の扶養控除、結局どれを使えば得なのか整理できていない」
22歳で働き始めてから65歳で定年を迎えるまで、サラリーマンが人生で払う所得税・住民税・社会保険料の総額は、生涯年収の水準にもよりますが数千万円単位にのぼります。控除制度を毎年きちんと申告する人と、証明書を出し忘れたり申告自体を忘れたりする人との間には、積み重ねると決して小さくない手取りの差が生まれます。
この記事では、年代ごとに使う機会が増える主な控除制度を、国税庁のタックスアンサーにもとづいて整理し、実際に控除を使い忘れて損をした人、逆に早めに気づいて得をした人の実例とあわせて紹介します。
1. 20代、iDeCoとふるさと納税を早く始めるほど効いてくる

20代で使い始める人が増えているのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)とふるさと納税です。iDeCoの掛金は、小規模企業共済等掛金控除として全額が所得控除の対象になります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」では、次のように説明されています。
『納税者が小規模企業共済法の規定による共済契約に基づく掛金、確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金及び個人型年金加入者掛金、心身障害者扶養共済制度に基づく掛金を支払った場合には、その支払った掛金は、その全額が所得控除の対象になります。』
出典:国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
たとえば毎月2万円をiDeCoに積み立てた場合、年間24万円が所得から差し引かれます。所得税・住民税をあわせた実効税率が20パーセント程度の人であれば、年間で数万円の節税効果が出ます。ただし、iDeCoは60歳になるまで原則として引き出せない資産形成の制度であるため、目先の節税額だけを見て無理な金額を積み立てると、生活資金が足りなくなるリスクがある点には注意が必要です。
ふるさと納税は寄附金控除の一種で、給与所得者であればワンストップ特例制度を使うことで確定申告なしで控除を受けられます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」では、寄附金控除について次のように説明されています。
『個人が、国や地方公共団体、公益社団法人、特定公益増進法人などに対し「特定寄附金」を支出した場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。』
出典:国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1150.htm
【現場のリアル】iDeCoを始めるタイミングで、先輩と5年分の差がついていたと気づいた話
入社3年目で、初めてiDeCoの資料を読んだという方の話です。同期入社で同じ部署にいる先輩が、入社直後からずっとiDeCoを続けていたと知り、何気なく積立総額の話になったとき、「たった数年の差なのに、複利で運用されている分と、所得控除で浮いた税金を貯蓄に回していた分を合わせると、思っていた以上に差がついている」と実感したそうです。本人は「iDeCoは60歳まで引き出せないと聞いて漠然と怖く感じていたが、少額から始めていれば怖さより早さのほうが効いていたと分かった」と話していました。
2. 30代、住宅ローン控除と医療費控除が家計に直結する
住宅を購入した人にとって最大の控除が住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)です。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1210 マイホームの取得等と所得税の税額控除」では、住宅ローン控除の適用を受けるための手続きについて次のように説明されています。
『住宅ローンを利用してマイホームの新築、取得又は増改築等をし、令和7年12月31日までに自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときは、その取得等に係る住宅ローンの年末残高の合計額を基として計算した金額を、居住の用に供した年以後の各年分の所得税額から控除します。』
出典:国税庁「No.1210 マイホームの取得等と所得税の税額控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1210.htm
住宅ローン控除は、控除を受ける最初の年だけ確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で会社を通じて手続きできます。最初の年の確定申告を忘れると、その年の控除がまるごと受けられなくなるため、購入した年の翌年2月から3月にかけての確定申告は必須の手続きです。
出産や不妊治療にかかった費用は、医療費控除として合算できます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」では、対象となる医療費の範囲について、出産費用や不妊治療にかかる費用の一部も含まれる旨が案内されています。
出典:国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
【現場のリアル】住宅ローン控除の初年度確定申告を忘れかけた話
マンションを購入して初めての年末調整を迎えた方の話です。会社の年末調整担当から「住宅ローン控除は年末調整でできますよ」と案内されたのを鵜呑みにして、確定申告をせずに済ませようとしていたそうですが、たまたま金融機関から届いた年末残高証明書を見返しているときに、初年度だけは確定申告が必要だという注意書きに気づいたといいます。慌てて2月の確定申告期間にe-Taxで申告を済ませ、数十万円の還付を受けられたそうです。本人は「会社の年末調整は2年目以降の話で、初年度は完全に自分でやる手続きだと最初から知っておけば、こんなに焦らずに済んだ」と振り返っていました。
3. 40代から50代、親の扶養控除と医療費・介護費の積み上げ

実家の親の年金収入が一定額以下であれば、扶養親族として控除の対象に入れられます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1180 扶養控除」では、老人扶養親族の控除額について次のように説明されています。
『控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人を老人扶養親族といい、老人扶養親族については、控除額は58万円になります。ただし、同居していない場合は48万円になります。』
出典:国税庁「No.1180 扶養控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
同居していれば58万円、別居でも要件を満たせば48万円の控除を受けられるため、離れて暮らす実家の親であっても、仕送りなどで生計を一にしている実態があれば対象になり得ます。親の年金収入が公的年金等控除を適用しても一定額を超えていないかどうかは、事前に年金の源泉徴収票などで確認が必要です。
親の介護費用や、自分自身の通院費用がかさむ年代でもあります。医療費控除は、家族分をまとめて世帯の中で所得の高い人が申告することで、控除額を最大化できます。
【現場のリアル】親を扶養に入れられることを知らず、数年分を見送っていた話
年金暮らしの母親に毎月仕送りをしていた方の話です。母親自身が確定申告をしていなかったため、自分の扶養に入れられるという発想自体がなかったそうですが、会社の年末調整説明会で「別居していても、生計を一にしていれば老人扶養親族になり得る」と聞き、初めて自分にも該当する可能性があると気づいたといいます。母親の年金額を確認して要件を満たしていることが分かり、その年から扶養控除の対象に加えたところ、年間で数万円分、住民税と所得税の負担が軽くなったそうです。本人は「もっと早く知っていれば、この数年分も控除を受けられていたと思うと惜しい」と話していました。扶養控除は過去5年分であればさかのぼって還付申告できるため、心当たりがある場合は税務署や確定申告書等作成コーナーで確認する価値があります。
4. 60代、退職金と年金の受け取り方で税負担が変わる
退職金には、勤続年数に応じた退職所得控除が用意されています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」では、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合の扱いについて次のように説明されています。
『「退職所得の受給に関する申告書」の提出がある場合には、退職金の支払者が所得税額及び復興特別所得税額を計算し、退職手当等の支払の際に、その所得税額及び復興特別所得税額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。』
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
この申告書を出し忘れると、退職金の支払額から一律20.42パーセントが源泉徴収されるだけの状態になり、本来より多く税金を払ったままになる可能性があります。退職金を受け取る前に、勤務先の人事から渡される申告書を必ず提出しておく必要があります。
年金の受け取りが始まってからは、公的年金等控除の対象になります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」では、公的年金等に係る雑所得の計算方法について次のように説明されています。
『公的年金等の収入金額の合計額から、公的年金等控除額を差し引いた残額が、公的年金等に係る雑所得の金額になります。』
出典:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
公的年金等の収入が一定額以下で、それ以外の所得がない場合は、確定申告不要制度の対象になり申告が不要になることもありますが、医療費控除など他の控除を受けたい場合は、あえて確定申告をしたほうが還付を受けられるケースもあります。
【現場のリアル】「退職所得の受給に関する申告書」の提出を忘れて多く源泉徴収された話
定年退職を迎えた方の話です。退職手続きが慌ただしく進む中で、人事から渡された書類のうち「退職所得の受給に関する申告書」だけを提出し忘れたまま退職金が振り込まれたそうです。振込額を見て、想定していたより手取りが少ないことに気づき、経理に問い合わせたところ「申告書の提出がなかったので一律の税率で源泉徴収している」と説明を受けたといいます。結局、翌年の確定申告で精算し、多く引かれていた分の還付を受けられたそうですが、「退職の手続き書類は種類が多くて、一枚出し忘れただけでこんなに影響が出るとは思わなかった」と話していました。
5. よくある質問

Q1. 控除の申告を忘れていた場合、過去にさかのぼって取り戻せますか。
還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間さかのぼって行えます。申告し忘れていた控除に心当たりがある場合は、まだ間に合う可能性があるので確認してみる価値があります。
Q2. iDeCoやふるさと納税は、控除のためだけに無理して始めるべきですか。
無理をしてまで始める必要はありません。控除は結果的についてくるものであり、生活資金を圧迫してまで掛金や寄附額を増やすと本末転倒です。すでに資産形成や返礼品に関心がある場合に、控除の仕組みも合わせて活用する、という順番で考えるのが現実的です。
Q3. 会社員は自分で確定申告をしなくても、年末調整だけで控除は十分ですか。
住宅ローン控除の初年度や、医療費控除、ふるさと納税でワンストップ特例を使わなかった場合など、年末調整では対応できず確定申告が必要になる場面があります。年末調整だけで完結すると思い込んでいると、控除の機会を取りこぼすことがあります。
まとめ、年代ごとの控除は知っているかどうかで結果が変わる
20代のiDeCoとふるさと納税、30代の住宅ローン控除と医療費控除、40代から50代の老人扶養控除、60代の退職所得控除と公的年金等控除。それぞれの制度は国税庁のタックスアンサーで要件と手続きが明確に定められており、知らなかった、申告を忘れたという理由だけで受けられたはずの控除を取りこぼしている人は少なくありません。
一つひとつの控除は数万円から数十万円の差にとどまることが多くても、年代ごとに正しく積み重ねていけば、生涯を通じた手取りには無視できない差になっていきます。まずは今年の年末調整で、自分に該当する控除を漏れなく確認するところから始めてみてください。
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