「実効税率」と「限界税率」の違い、昇給しても手取りが増えにくい本当の理由

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目次

「年収が50万円アップしたのに、手取りを計算したら25万円くらいしか増えていなかった」

「実効税率と限界税率って何が違うのか、給与明細を見てもよく分からない」

昇進や昇給で額面の年収が増えたはずなのに、振込額を見て「思ったほど増えていない」と感じたことがある人は少なくありません。この感覚のズレを引き起こしているのが、限界税率という考え方です。多くの人は「自分の税率は15%くらいだから、10万円昇給したら1万5千円引かれて8万5千円残るはず」と考えがちですが、これは年収全体に対する平均的な負担率(実効税率)の話で、昇給分だけを見たときの負担率(限界税率)とは別物です。

この記事では、国税庁の所得税速算表と給与所得控除の速算表、総務省の個人住民税の資料、日本年金機構と全国健康保険協会の社会保険料に関する公式情報をもとに、実効税率と限界税率がなぜ食い違うのか、年収別にどのくらいの差が出るのか、そして控除を使うとなぜ節税効果が大きくなるのかを整理しました。


1. 実効税率と限界税率は何が違うのか

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同じ「税率」という言葉でも、指しているものがまったく違います。

税率の名称何に対する割合か
実効税率(平均税率)年収全体に対して、実際に引かれている税金・社会保険料の合計割合
限界税率(追加税率)新しく増えた最後の1円(昇給・残業代・賞与の増額分)に対してかかる税率

給与明細から「今年の手取りは年収の何割くらいか」を計算すると、多くの会社員で8割前後になります。この数字が実効税率です。ところが昇給や残業代で「増えた部分」だけを取り出すと、そこには所得税の最も高いランクの税率、住民税10%、社会保険料がまとめてかかるため、実効税率よりずっと高い割合が天引きされます。これが限界税率です。

所得税の税率がそもそもどう決まっているかは、国税庁が速算表として公開しています。

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2260 所得税の税率」では、所得税の税率について次のように説明されています。
『所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されています』
課税される所得金額に応じた速算表は次のとおりです。
195万円以下:5%(控除額0円)/195万円超330万円以下:10%(控除額97,500円)/330万円超695万円以下:20%(控除額427,500円)/695万円超900万円以下:23%(控除額636,000円)/900万円超1,800万円以下:33%(控除額1,536,000円)/1,800万円超4,000万円以下:40%(控除額2,796,000円)/4,000万円超:45%(控除額4,796,000円)
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

この表の税率は「課税される所得金額」、つまり年収から給与所得控除や社会保険料控除、基礎控除などを差し引いたあとの金額に対してかかります。年収そのものに直接この税率がかかるわけではない点を、まず押さえておく必要があります。

そして所得税は超過累進課税の仕組みなので、課税所得が330万円から695万円のゾーンに入っている人は、そのゾーンの中で増えた所得にだけ20%がかかります。すでに稼いでいた195万円分や330万円分の所得に、あとから20%が遡って課税されるわけではありません。この「増えた部分にだけ高い税率がかかる」という性質こそが限界税率の正体です。

#### 【現場のリアル】給与明細を見て「あれ、思ったより増えていない」と青ざめた話

昇給の内示をもらい、月給が2万円上がると聞いて素直に喜んでいたという、ある会社員の話です。人事から「基本給が2万円アップします」と伝えられたとき、単純に手取りも2万円近く増えるものだと思い込み、増えた分で少し贅沢な外食でもしようかと考えていたそうです。ところが昇給後初めての給与明細を開いてみると、控除欄の所得税と住民税、社会保険料の合計が思っていたより重く、手取りの増加分は1万円をわずかに超える程度だったといいます。経理に電話をして「計算間違いではないか」と確認したところ、「基本給が上がった分、社会保険料の等級も上がっていて、その影響も含まれています」と説明され、ようやく納得したそうです。本人は「額面の増加額と手取りの増加額は別物だと、頭では分かっていたつもりだったが、実際に明細を見るまで実感が湧かなかった」と話していました。昇給の話が出たときは、額面ベースの金額だけでなく、社会保険料の等級が変わるかどうかも一緒に確認しておくと、手取りの見込み違いを減らせます。


2. 給与所得控除の仕組みと、課税所得はどう決まるか

年収から所得税がかかる「課税所得」までの間には、いくつかの控除が挟まります。会社員の場合、まず年収に応じて給与所得控除が自動的に差し引かれます。

【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.1410 給与所得控除」に掲載されている令和7年分以降の給与所得控除額の速算表は次のとおりです。
給与等の収入金額190万円まで:650,000円/190万円超360万円以下:収入金額×30%+80,000円/360万円超660万円以下:収入金額×20%+440,000円/660万円超850万円以下:収入金額×10%+1,100,000円/850万円超:1,950,000円(上限)
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm

給与所得控除を差し引いたあと、さらに基礎控除(令和7年度税制改正後は所得金額に応じて58万円などが基本額)や社会保険料控除、生命保険料控除などを差し引いて、ようやく所得税の税率がかかる課税所得が確定します。つまり「年収700万円だから所得税率20%」といった単純な対応ではなく、その人がどれだけ控除を使っているかによって、実際に何%のゾーンに入るかが変わってきます。

年収別に見た、限界税率のおおまかな目安

以下は、独身で扶養親族がいない給与所得者が、給与所得控除と基礎控除、社会保険料控除だけを使った場合を想定した試算例です。実際には生命保険料控除やiDeCoの掛金、扶養控除など人によって控除の内容が異なるため、あくまで目安として見てください。

年収(給与収入)給与所得控除後の所得課税所得の目安所得税の限界税率
300万円約202万円約99万円5%
500万円約356万円約223万円10%
700万円約520万円約357万円20%
900万円約705万円約512万円20%
1,200万円約1,005万円約827万円23%
2,000万円約1,805万円約1,627万円33%

年収900万円あたりまでは、多くの会社員が20%前後のゾーンに収まります。900万円を超えたあたりから23%、1,200万円を超えたあたりから33%へと段階が上がっていくのが実態で、俗に言われる「年収900万円で所得税率23%」というのは、扶養控除など他の控除を考慮しない単純化された目安であり、実際にはもう少し高い年収にならないと23%のゾーンに入らないケースも多くあります。自分がどのゾーンにいるかを正確に知りたい場合は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」と「所得控除の額の合計額」を引き算すれば、実際の課税所得を確認できます。


3. 限界税率に上乗せされる住民税と社会保険料

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所得税の限界税率だけでも印象的ですが、実際に給料から天引きされるのは所得税だけではありません。住民税と社会保険料も上乗せされます。

住民税の所得割は、所得税のような累進課税ではなく、一律の税率です。

【総務省の公式見解・1次情報】
総務省「地方税制度 個人住民税」では、所得割の税率について次のように説明されています。
『所得割の税率は、所得に対して10%(道府県民税が4%、市町村民税が6%)とされており、前年の1月1日から12月31日までの所得で算定されます』
出典:総務省「地方税制度 個人住民税」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html

つまり住民税は、所得の多寡にかかわらず一律10%が上乗せされます。ここに社会保険料が加わります。健康保険料と厚生年金保険料はいずれも会社と本人が半分ずつ負担する仕組みで、日本年金機構は次のように説明しています。

【日本年金機構の公式見解・1次情報】
日本年金機構「厚生年金保険の保険料」では、次のように説明されています。
『厚生年金保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担します』
保険料率は平成29年9月を最後に段階的な引き上げが終了し、18.300%で固定されています。
出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html

半分ずつ、という部分は具体的な計算式でも示されています。

【日本年金機構の公式見解・1次情報】
日本年金機構「保険料の計算方法について」では、給与から控除する被保険者負担分について次のように説明されています。
『控除する金額=その被保険者の標準報酬月額×保険料率÷2』
出典:日本年金機構「保険料の計算方法について」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20121026.html

厚生年金保険料率18.3%の半分である9.15%が本人負担です。健康保険料についても、全国健康保険協会(協会けんぽ)が毎年度の料率を公表しています。

【全国健康保険協会の公式見解・1次情報】
全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」では、次のように説明されています。
『令和8年度の平均保険料率は0.1%の引下げを行い、9.9%となります』
出典:全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/lp/2026hokenryou/

こちらも労使折半なので、本人負担は平均で4.95%程度になります。厚生年金の9.15%と合わせると、40歳未満・65歳以上の人でおおむね14%前後、40歳から64歳で介護保険料が上乗せされる人はおおむね15%前後が、給与から天引きされる社会保険料の本人負担割合です。

ただし、厚生年金保険料には上限があります。標準報酬月額は32等級(65万円)が上限で、それ以上いくら給料が上がっても厚生年金保険料は増えません。年収でいうとおおむね780万円前後を超えたあたりから、社会保険料の対年収負担率はむしろ下がっていく計算になります。つまり年収900万円や1,200万円の人の限界負担率を考えるときは、社会保険料の割合を一律15%と考えるのではなく、やや低めに見積もる必要があります。

所得税の限界税率、住民税10%、社会保険料の本人負担分を単純に足し合わせると、年収700万円前後の会社員では昇給分の45%前後が天引きされる計算になります。年収全体で見た手取り割合(実効税率の裏返し)はおおむね8割前後なのに、昇給した部分だけを切り取ると半分近くが消えてしまう、というギャップがここで生まれます。

#### 【現場のリアル】ボーナスの手取りが想像より少なくて総務に聞きに行った話

初めて大きめのボーナスをもらったという、入社4年目の会社員の話です。査定が良く、額面で前年より15万円も多いボーナス通知を受け取り、振込を心待ちにしていたそうです。ところが実際に振り込まれた金額を見ると、増えたはずの15万円のうち、手元に残ったのは半分もなかったといいます。「毎月の給料はここまで引かれた感覚はないのに、ボーナスだけこんなに引かれるのはおかしいのではないか」と疑問に思い、総務の窓口に確認しに行ったそうです。担当者からは「賞与の源泉徴収は前月の給与額をもとにした税率を掛けて計算する決まりになっていて、査定が上がった月はその分税率区分も上がりやすい」と説明を受け、社会保険料も月々の給料と同じ料率で天引きされていることを教えられたといいます。本人は「ボーナスは特別に高い税率がかかるわけではなく、前月の給料に連動した税率が掛かるだけだと分かって少し安心したが、額面と手取りの差にはやはり驚いた」と振り返っていました。ボーナスの手取りを事前に把握したい場合は、直前の給与明細に記載された社会保険料控除後の金額をもとに、会社の給与担当や国税庁の算出率の表で目安を確認しておくと、振込額を見たときの驚きを減らせます。


4. 限界税率が高い人ほど、所得控除の節税効果も大きくなる

限界税率が高いということは、裏を返せば所得控除を使ったときに戻ってくる金額も大きいということです。iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は全額が所得控除の対象になるため、限界税率が高い人ほど、同じ掛金でも節税額が大きくなります。

たとえば年間24万円をiDeCoに拠出した場合、所得税の節税額は「拠出額×所得税の限界税率」で概算できます。所得税の限界税率が5%の人であれば年間1.2万円、20%の人であれば年間4.8万円、33%の人であれば年間7.9万円という具合に、同じ拠出額でも節税額に大きな差が出ます。ここに住民税の軽減分(一律10%相当)が加わるため、実際の節税額はさらに上乗せされます。

年収が上がって限界税率のゾーンが上がった年ほど、年末調整で控除証明書を1枚出し忘れるだけで失う節税額も大きくなります。生命保険料控除や地震保険料控除、iDeCoの小規模企業共済等掛金控除など、年末調整で申告できる控除に漏れがないか、毎年の書類作成のタイミングで確認しておく価値があります。

#### 【現場のリアル】年末調整の還付金を見て「iDeCoってこんなに効くのか」と驚いた話

昇進で年収が800万円台に乗った年に、初めてiDeCoを始めたという管理職の話です。同僚から「節税になるらしい」という話を聞いて軽い気持ちで月2万円の拠出を始めたものの、正直なところどれくらい効果があるのか半信半疑だったそうです。年末調整の書類にiDeCoの小規模企業共済等掛金払込証明書を添付して提出し、翌月の給与明細で還付金額を見たところ、想像していたより大きな金額が戻ってきていて驚いたといいます。経理に確認すると「年収が上がって税率区分も上がっているので、同じ掛金でも若い頃より節税効果が大きくなっている」と説明を受け、収入が増えたことで控除の威力自体が変わることを実感したそうです。本人は「昇給で税金の負担が重くなる話ばかり気にしていたが、控除を使う側にも回れることに気づいていなかった」と話していました。年収が上がったタイミングは、天引きされる額に落ち込むだけでなく、控除の使い方を見直す好機でもあります。


5. 手取りを守るために確認しておきたいこと

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限界税率の仕組みを理解したうえで、実務として押さえておくと良いポイントを整理します。

所得控除を漏れなく申告することがまず基本です。iDeCoや生命保険料控除、地震保険料控除、住宅ローン控除、扶養控除など、年末調整で申告できるものは書類の提出漏れがないか確認しておく必要があります。年の途中で家族構成が変わった場合(結婚、出産、扶養家族の異動など)は、年末調整の書類にその年の状況を正確に反映させることも欠かせません。

ふるさと納税は、限界税率が高い人ほど控除上限額も大きくなる仕組みです。上限額は年収や家族構成によって変わるため、ふるさと納税サイトのシミュレーションや、お住まいの自治体・税理士への確認を通じて、自分の上限額を毎年見直しておくと使い切れずに終わることを防げます。

副業を持つ場合は、経費計上や青色申告特別控除など、給与所得とは別の切り口で所得を圧縮できる余地があります。ただし副業の所得や経費の扱いは制度が細かく変わりやすいため、確定申告の時期が近づいたら国税庁のタックスアンサーや税務署の相談窓口で最新の取り扱いを確認するのが確実です。


6. よくある質問(Q&A)

Q1. 限界税率を下げる方法はありますか

課税所得そのものを圧縮する方法として、iDeCoや小規模企業共済、生命保険料控除などの所得控除を使う方法があります。課税所得が195万円、330万円、695万円といった国税庁の速算表の境界線を下回れば、その分だけ低い税率区分に収まる可能性があります。ただし境界線ぎりぎりの場合を除き、控除を増やしても税率区分そのものは変わらず、課税所得そのものが減ることで納税額が下がるケースの方が多い点には注意してください。

Q2. ボーナス(賞与)にかかる税率は毎月の給料より高いのですか

国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」によれば、賞与の源泉徴収税額は、前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額をもとに、扶養親族等の数に応じた算出率の表から税率を求めて計算します。前月の給与額が高い月にボーナスが支給されると、その分算出率も上がりやすいため、体感として高く引かれたように感じることがありますが、最終的には年末調整で年間の総所得をもとに正しく精算されます。

出典:国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm

Q3. ふるさと納税をすれば限界税率の負担は軽くなりますか

ふるさと納税は、寄付額のうち2,000円を超える部分が住民税や所得税から控除される制度で、限界税率そのものを下げるものではありません。ただし控除上限額は年収や家族構成、他の控除の状況によって決まるため、限界税率が高い人ほど上限額も大きくなる傾向があります。上限額を超えて寄付すると単なる寄付になってしまうため、毎年の年収が確定する年末にかけて上限額を確認しておくことをおすすめします。


まとめ、実効税率と限界税率は別物として考える

年収全体で見た手取り割合(実効税率の裏返し)と、昇給や残業代など新しく増えた部分にかかる負担割合(限界税率)は、まったく別のものです。国税庁の所得税速算表、総務省の住民税の資料、日本年金機構と全国健康保険協会の社会保険料の資料を見比べると、年収700万円前後の会社員で昇給分の45%前後が天引きされる計算になり、これが「昇給しても手取りが増えた実感が薄い」という感覚の正体です。

一方で、限界税率が高い人ほど所得控除を使ったときの節税効果も大きくなります。iDeCoや年末調整の各種控除を漏れなく申告し、ふるさと納税の上限額を毎年見直すことが、限界税率の負担を実質的に和らげる現実的な方法です。自分の課税所得や控除の状況を正確に把握したい場合は、源泉徴収票の内訳を確認するか、税務署や税理士への相談も選択肢に入れておくと安心です。

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