「今年、育休手当や出産手当金を150万円もらったけれど、年末調整の用紙に書く『年収』にこの金額を足さなきゃいけないの」
「病気で受給した傷病手当金は、税金の計算に含めるの」
出産、育児、病気療養、失業などで会社を休業・退職した際に、国や健康保険組合から支給される公的な給付金がいくつかあります。
年末調整の時期になると、「手当金として銀行口座に何十万円、何百万円も振り込まれたのだから、年末調整の用紙の『年収の見積もり』にこの金額を足さなければいけないのでは」と思い込んでしまう方が、実はとても多くいます。
先に結論だけお伝えしておきます。傷病手当金、出産手当金、育児休業給付金(育休手当)、失業保険などの公的給付金は、それぞれの根拠となる法律によって課税されないと明確に定められている非課税所得であり、年末調整の申告書には一円も書く必要がありません。通帳に大きな金額が振り込まれていても、税務上の年収は0円として扱われます。
もし勘違いして手当の金額を申告書に書いてしまうと、配偶者控除が使えなくなったり、税金が実際より高く計算されてしまったりする、もったいないミスにつながります。実際に総務の窓口ではこうした書き間違いが毎年のように起きています。
この記事では、年末調整で「年収0円扱い」になる非課税給付金の一覧から、非課税と定められている法律上の根拠、申告書の正しい書き方、そして手当金をもらいながら配偶者控除を満額受けるための実務のポイントまで、根拠となる条文と現場で実際にあったやり取りを交えて整理しました。
1. ひと目でわかる 年末調整で「年収0円」になる公的給付金一覧

国や公的保険から支給される以下の給付金は、いずれも所得税・住民税が一切かからない非課税所得です。年末調整の書類にこれらの金額を記入する必要はありません。
| 給付金の名称 | 支給元・制度 | 非課税の根拠法 | 年末調整での記入 |
|---|---|---|---|
| ① 育児休業給付金(育休手当) | 雇用保険(ハローワーク) | 雇用保険法第12条 | 0円(書かない) |
| ② 出生時育児休業給付金(産後パパ育休) | 雇用保険(ハローワーク) | 雇用保険法第12条 | 0円(書かない) |
| ③ 出産手当金 | 健康保険組合・協会けんぽ | 健康保険法第62条 | 0円(書かない) |
| ④ 出産育児一時金(原則50万円) | 健康保険組合・協会けんぽ | 健康保険法第62条 | 0円(書かない) |
| ⑤ 傷病手当金(病気・ケガ・うつ病等) | 健康保険組合・協会けんぽ | 健康保険法第62条 | 0円(書かない) |
| ⑥ 介護休業給付金 | 雇用保険(ハローワーク) | 雇用保険法第12条 | 0円(書かない) |
| ⑦ 基本手当(失業保険・失業手当) | 雇用保険(ハローワーク) | 雇用保険法第12条 | 0円(書かない) |
| ⑧ 労災保険の休業補償給付 | 労働基準監督署(労災保険) | 所得税法第9条第1項第3号関係の取扱い | 0円(書かない) |
| ⑨ 児童手当 | 市区町村役場 | 児童手当法第16条 | 0円(書かない) |
| ⑩ 遺族年金・障害年金 | 日本年金機構(公的年金) | 所得税法第9条第1項第3号 | 0円(書かない) |
【税金計算上の大原則】
上記の手当金は、年間で合計200万円もらっていようと300万円もらっていようと、
税法上の年収は「0円(所得ゼロ)」として完全に無視して計算します。
給与収入とは別枠で、最初からなかったものとして扱われるイメージです。
2. なぜ公的給付金は非課税なのか 法律の一次情報で確認する
「非課税らしい」という伝聞ではなく、実際にどの法律のどの条文が根拠になっているのかを、ひとつずつ確認しておきます。曖昧な理解のまま申告書を書くと、後述するような記入ミスにつながるためです。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.2011 課税される所得と非課税所得」では、次のように説明されています。
『所得税は、原則としてすべての所得に対して課税することとしていますが、所得の性質などから見て所得税を課税することが適当でないものや、社会政策その他の見地から所得税を課税しないこととしているものがあります』
出典:国税庁「No.2011 課税される所得と非課税所得」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2011.htm
出産手当金と傷病手当金は、健康保険法の中に非課税の根拠となる条文があります。
【国税庁の公式見解・1次情報】
健康保険法第62条(租税その他の公課の禁止)は、次のように定めています。
『租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない』
出典:健康保険法第62条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
育児休業給付金、出生時育児休業給付金、介護休業給付金、失業保険(基本手当)は、いずれも雇用保険法上の「失業等給付」に位置づけられており、こちらも同じ発想の条文で非課税と定められています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
雇用保険法第12条(公課の禁止)は、次のように定めています。
『租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない』
出典:雇用保険法第12条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116
国税庁自身も、出産手当金について次のような質疑応答事例を公開しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁の質疑応答事例「出産のために欠勤した場合に給付される出産手当金」では、健康保険法の規定に基づき支給される出産手当金について、健康保険法第62条の規定により租税その他の公課を課することができないとされていることから、所得税は課されない旨が示されています。
出典:国税庁「出産のために欠勤した場合に給付される出産手当金」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/27.htm
配偶者控除の判定との関係についても、国税庁の確定申告書等作成コーナーのFAQに、育児休業基本給付金と出産育児一時金それぞれについて、はっきりとした回答が載っています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「育児休業基本給付金の支給を受けている配偶者」では、次のように回答しています。
『育児休業基本給付金は、雇用保険法第61条の4の規定に基づき支給されるものであり、同法第10条に規定する失業等給付に該当し、同法第12条の規定により、租税その他の公課は課すことができないこととされていますので、控除対象配偶者や扶養親族に該当するかどうかを判定する際の合計所得金額には含まれません』
出典:国税庁「育児休業基本給付金の支給を受けている配偶者」 https://www.keisan.nta.go.jp/r1yokuaru/cat2/cat22/cat22a/cid023.html
児童手当と、遺族年金・障害年金についても、それぞれ別の根拠条文があります。児童手当は児童手当法第16条で「租税その他の公課は、児童手当として支給を受けた金銭を標準として、課することができない」と定められており、遺族年金や障害年金は所得税法第9条第1項第3号によって非課税所得に位置づけられています。
条文の建てつけは制度ごとに少しずつ違いますが、共通しているのは「生活を支えるための給付から税金を天引きしてしまっては、本来の趣旨が果たせなくなる」という考え方です。この考え方さえ押さえておけば、新しい給付制度が出てきたときにも、非課税かどうかの見当がつけやすくなります。
【現場のリアル】総務担当者に「非課税だから書かなくていい」と言われてもピンとこなかった話
産休・育休を経て復職した方から聞いた話です。年末調整の書類一式を受け取りに総務の窓口へ行った際、担当者から「育休手当は非課税なので、年収の欄には書かなくて大丈夫ですよ」とさらっと説明されたそうです。ただ、本人の口座には育休中の8か月間で150万円近くが振り込まれていて、通帳の記帳欄には毎月きちんと金額が並んでいる状態でした。「目の前の通帳には確かにお金が入っているのに、それを0円として扱っていいと言われても、頭では分かっても腹落ちしなかった」と振り返っていました。結局その日は書類を白紙のまま持ち帰り、帰宅後に夫と一緒に国税庁のサイトで根拠になる条文を検索し、健康保険法や雇用保険法に「租税その他の公課を課すことができない」という一文が実際にあるのを確認して、ようやく「本当に0円でいいんだ」と納得できたそうです。翌朝、総務の窓口にもう一度顔を出し、「昨日確認したんですが、給与所得の欄だけ書けば大丈夫ですよね」と念押ししてから提出したといいます。
3. 年末調整の申告書はこう書く 妻が育休中のケースの記入例

妻が今年5月から産休・育休に入り、育休手当を150万円受給した場合の記入例です。給与所得控除の最低保障額は令和7年分から65万円に引き上げられていますので、その前提で計算します。
【妻の収入内訳】
・1月〜4月の給料 : 90万円
・5月〜12月の育休手当 : 150万円 →「非課税のため税務上は0円」
【妻の合計所得金額の計算】
給与収入90万円 - 給与所得控除65万円(最低保障額) = 給与所得25万円
育休手当150万円は非課税所得のため、この計算には一切加えない
【夫の年末調整(基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書)の記入】
・配偶者の給与収入の見積額 :[ 900,000 円 ]
・配偶者の合計所得金額の見積額 :[ 250,000 円 ](育休手当150万円は足さない)
---
→ 妻の合計所得金額は58万円以下となるため、
夫の年末調整で満額の配偶者控除が適用されます
書類には「収入」欄と「所得」欄の両方があります。収入欄に書くのは給料の額面だけで、育休手当や出産手当金といった非課税の給付は、この収入欄にも所得欄にも登場しません。ここを混同してしまうのが、実務でいちばん多いつまずきどころです。
【現場のリアル】育休手当を年収に足して申告書を書いてしまい、配偶者控除が外れそうになった話
会社員の夫を持つ女性が育休中に、夫の年末調整書類の「配偶者の合計所得金額の見積額」欄を、自分の代わりに記入してあげたときの話です。銀行口座の入出金明細アプリを見ながら、1月から4月分の給料と、5月以降に振り込まれた育休手当をすべて合計し、「配偶者の合計所得金額の見積額」の欄に150万円台の数字をそのまま書き込んで夫に渡してしまいました。夫はその用紙を疑いもせず会社の経理に提出し、数日後、経理担当者から「奥様、育休中でいらっしゃいますよね。この所得金額だと配偶者控除の対象から外れてしまうのですが」と確認の連絡が入りました。夫婦そろって最初は何が起きているのか分からず、慌てて記入した本人に確認したところ、「非課税だから足さなくていいなんて知らなかった、通帳に入っている金額をそのまま書くのが正直な申告だと思っていた」と話していたそうです。結局、育休手当を除いた給与収入だけで所得を計算し直し、用紙を書き直して事なきを得ましたが、「あのまま気づかずに提出されていたら、夫の手取りが年末調整の還付どころか、下手をすると数万円単位で目減りしていたかもしれない」とヒヤヒヤしたと話していました。
4. 令和7年度税制改正で変わった配偶者控除の所得要件
配偶者控除の「配偶者の所得がいくらまでなら控除を受けられるか」という基準は、令和7年度税制改正で見直されています。以前の情報のまま48万円という数字で覚えていると、記入の際に混乱するので注意してください。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」では、次のように示されています。
『扶養親族及び同一生計配偶者の合計所得金額要件について、48万円以下から58万円以下に引き上げる』
出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1190 配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか」では、控除対象配偶者に該当するための要件のひとつとして、次のように示されています。
『年間の合計所得金額が58万円以下(令和6年分以前は48万円以下)であること』
出典:国税庁「No.1190 配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1190.htm
給与収入だけで考えると、給与所得控除の最低保障額65万円と合わせて、年収123万円以下であれば合計所得58万円以下という要件を満たします。いわゆる「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わった、という報道を目にした方もいるかもしれませんが、その根拠がこの改正です。
合計所得金額が58万円を超えても、133万円以下であれば配偶者特別控除の対象になり、控除額が段階的に減っていく形で控除自体は受けられます。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1195 配偶者特別控除」では、配偶者特別控除の対象となる配偶者の要件について次のように示されています。
『年間の合計所得金額が58万円超133万円以下であること』
出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
そして肝心なのは、この58万円や133万円という所得の判定に、傷病手当金や出産手当金、育休手当は一切含まれないということです。給与収入だけで判定するからこそ、育休中や療養中でも配偶者控除、配偶者特別控除の対象になりやすいのです。
5. 税務上の年収判定マトリクス 実際の受給総額と混同しない

給与と非課税の手当を組み合わせたときに、税務上どう扱われるかを整理した表です。令和7年分以降の合計所得58万円以下(給与収入123万円以下)という基準にもとづいています。
| 給与・手当の組み合わせ | 実際の受給総額 | 税務上の年収(手当は除く) | 配偶者控除の判定 |
|---|---|---|---|
| 給与80万円+育休手当180万円 | 260万円 | 80万円 | 満額の配偶者控除 |
| 給料0円+傷病手当240万円 | 240万円 | 0円 | 満額の配偶者控除 |
| 給与120万円+出産手当60万円 | 180万円 | 120万円 | 満額の配偶者控除(合計所得55万円) |
| 給与200万円+育休手当100万円 | 300万円 | 200万円 | 配偶者特別控除の対象(控除額は逓減) |
実際に振り込まれた金額の合計と、税務上の年収は、まったく別物だと考えてください。手当が実際の受給額のなかでどれだけ大きな割合を占めていても、判定に使われるのは給与収入だけです。
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 会社から支給された慶弔見舞金や出産祝い金は課税されますか。
社会通念上相当と認められる金額、目安として数万円程度であれば、福利厚生の一環として非課税で扱われるのが一般的です。ただし高額になる場合や、給与規程上の手当として一律支給されている場合は、給与として課税対象になることもあるため、金額が大きいときは会社の経理担当者に確認しておくと安心です。
Q2. 傷病手当金を受給している夫を、正社員の妻の税制上の扶養に入れられますか。
はい、税制上の配偶者控除に夫を入れることができます。傷病手当金は税務上の年収0円として扱われるため、他に収入がなければ、夫を妻の年末調整の配偶者控除に入れて、妻の手取りを増やすことができます。なお、健康保険の被扶養者としての扶養(社会保険上の扶養)は、税制上の扶養とは別の基準(傷病手当金も収入として通算する日額基準)で判定されるため、こちらは加入している健康保険組合や協会けんぽに個別の確認が必要です。
Q3. 出産手当金と出産育児一時金は同じものですか。金額も申告の扱いも違いますか。
別の制度です。出産手当金は産前産後休業中に給与の代わりとして日割りで支給されるもので、金額は人によって変わります。出産育児一時金は出産そのものにかかる費用をまかなうためのもので、原則50万円が定額で支給されます。どちらも健康保険法第62条にもとづき非課税で、年末調整の記入欄には含めません。窓口では名前が似ているために混同されがちですが、非課税という扱いはどちらも共通していますので、記入の判断自体を間違える心配はありません。
Q4. 育休中に少しだけ副業のパート収入があった場合、その分はどう扱われますか。
育休手当そのものは非課税ですが、育休中に得た副業やパートの給与収入は、通常どおり課税対象の所得として合計所得金額に加算します。育休手当と合算して58万円を超えるかどうかではなく、あくまで課税対象の給与収入だけを合計して判定する点に注意してください。
Q5. 失業保険(基本手当)を受給しながら、配偶者の扶養に入ることはできますか。
税制上の扶養であれば、失業保険は非課税所得のため、他に所得がなければ扶養に入れます。一方で健康保険の被扶養者としての扶養は、失業保険の日額が一定額(多くの健康保険組合で日額3,612円程度)を超えると外れる場合があるため、税制上の扶養と社会保険上の扶養を分けて考える必要があります。
【現場のリアル】傷病手当金の受給中、副業のパートを我慢していた話
うつ病で休職し、傷病手当金を受給していた方の話です。生活費の足しにと近所のスーパーで週2日だけパートを始めようか迷っていたのですが、「傷病手当金をもらいながら働くと、非課税枠がなくなって税金が跳ね上がるらしい」という噂をSNSで見かけ、結局申し込みを見送ってしまったそうです。半年後、体調が落ち着いてから社会保険労務士に相談したところ、「傷病手当金そのものは非課税だから、パート収入があっても手当自体への課税は発生しない、ただし傷病手当金は労務不能であることが前提の給付なので、働ける状態でパートを始めると、その分の傷病手当金自体が減額や支給停止になる可能性がある」という説明を受け、税金の話と支給要件の話を混同していたことに気づいたといいます。「非課税かどうか」と「働いたら手当が止まるかどうか」は別の論点なのに、ネットの断片的な情報のせいで、必要以上に我慢してしまっていたと話していました。
まとめ 公的給付金は年収0円扱い 正しく配偶者控除を使う
育休手当、出産手当金、傷病手当金、失業保険は、それぞれの根拠法によって全額非課税と定められています。年末調整の書類の年収・所得欄には、これらの金額を一円も書く必要がありません。
配偶者控除や配偶者特別控除の判定は、非課税の手当を除いた給与収入だけで行われます。令和7年分からは合計所得の基準が48万円から58万円に、給与収入換算では123万円に引き上げられているので、育休中や療養中でも満額の配偶者控除の対象になりやすくなっています。確定申告や住民税の申告も、これらの給付金だけを理由に必要になることはありません。
数字だけを見ると「こんなに振り込まれているのに本当に0円でいいのか」と不安になる気持ちはよく分かります。ただ、その不安の根っこにあるのは、実際の受給額と税務上の年収を同じものだと思い込んでしまうところにあります。ここを切り分けて理解しておけば、総務や経理からの指摘に慌てることもなくなります。
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