「副業でパソコンや機材をたくさん買って赤字になったけれど、本業の給料の税金と相殺して税金を安くできるのか」
「ネットで『副業の赤字を使って確定申告すれば数十万円の税金が戻ってくる』と見たけれど、本当に合法なのか」
副業を始めたサラリーマンの間で過去に大きな話題となり、いまも多くの人が疑問に思っているのが、副業の赤字と給与所得の損益通算、いわゆる「副業節税」と呼ばれる仕組みです。
副業が「事業所得」として認められる正当なビジネスであれば、赤字を本業の給料と相殺(損益通算)して、天引きされていた税金を取り戻すことができます。一方で、副業が「雑所得」とみなされた場合は、赤字は一切給料と相殺できず、税務上はゼロとして切り捨てられます。同じ金額の赤字を出していても、所得区分が違うだけで結果はまったく別物になります。
さらに令和4年(2022年)10月7日、国税庁は所得税基本通達を改正し、事業所得と雑所得を区分する基準を明確化しました。帳簿書類の保存がない副業や、収入規模が小さいまま何年も赤字が続く副業に対して、税務署が厳しい目を向けるようになった経緯があります。安易な赤字申告が税務調査で否認されれば、還付されたはずの税金を返還したうえで延滞税まで課される事態になりかねません。
この記事では、副業の赤字を給料と相殺できる条件から、国税庁の事業所得と雑所得の最新判定基準(300万円通達)、帳簿はどこまで細かくつければいいのかという実務上の疑問、税務調査で否認されないための保存書類、年末調整と確定申告の進め方まで、国税庁の一次情報に基づいて整理しました。
【現場のリアル】副業の赤字で数十万円の還付を受け取れて驚いた話
Web制作の副業を始めて1年目、機材やソフトへの投資がかさんで赤字になった会社員の方から聞いた話です。本業の給料からは毎月きっちり所得税が天引きされているのに、副業では利益どころか持ち出しばかりで、正直「今年は損しかしていない」と落ち込んでいたそうです。ところが確定申告の時期に、知り合いの税理士から「その赤字、ちゃんと帳簿をつけているなら事業所得として申告できるはずですよ」と言われ、半信半疑で確定申告書に損益通算の欄を記入して提出したところ、数週間後に指定口座へ十数万円が振り込まれたといいます。本人は「赤字を出したのに得をするなんておかしくないか」と最初は不安になり、税務署に電話をかけて「これは本当に受け取っていいお金なんですか」と確認したそうです。窓口の担当者から「帳簿をつけて事業として行っている実態があれば、制度上正しい還付です」と説明を受け、ようやく安心できたとのことでした。仕組みを知らないまま赤字を放置していたら、この還付は一円も受け取れなかった話です。
1. 損益通算できるのは「事業所得」のみ。雑所得の赤字は相殺できない

所得税法上、他の所得(給与所得など)と赤字を合算して税金を減らせる「損益通算」の対象となる所得は限られています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2250 損益通算」では、各種所得金額の計算上生じた損失のうち、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額及び譲渡所得の金額の計算上生じた損失に限り、一定の順序に従って他の各種所得の金額から控除できると説明されています。配当所得、給与所得、一時所得及び雑所得の金額の計算上損失が生じた場合、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできないとも明記されています。根拠となる法令は所得税法第69条です。
出典:国税庁「No.2250 損益通算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
損益通算の対象になる所得と、ならない所得を整理すると次のとおりです。
【損益通算ができる所得 vs できない所得(所得税法第69条・No.2250)】
| ① 損益通算ができる所得 (給料の税金を減らせる) | ・不動産所得(賃貸経営等) ・事業所得(本格的な個人事業・副業) ・山林所得、譲渡所得(総合課税分) |
|---|---|
| ② 損益通算が一切できない (赤字はゼロとして切り捨て) | ・雑所得(一般的なネット副業・お小遣い稼ぎ) ・一時所得、利子所得、配当所得 |
つまり、あなたの副業が税務署から「事業所得」と認められれば給料の税金を減らせますが、「雑所得」と判定された時点で、どれだけ大きな赤字を出していても税金は戻ってきません。この所得区分の見極めこそが、副業赤字の損益通算における最大の分岐点になります。
2. 事業所得と雑所得を分ける最新基準(令和4年10月7日の通達改正)
国税庁は令和4年10月7日、「所得税基本通達の制定について」の一部改正(法令解釈通達)を公表し、所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)を見直しました。この改正は令和4年分以後の所得税から適用されています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」(令和4年10月7日公表)により、所得税基本通達35-2が「事業から生じたと認められない所得で雑所得に該当するもの」から「業務に係る雑所得の例示」に見直されました。事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が社会通念上事業と称するに至る程度で行われているかどうかで判定すること、そしてその所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存があれば概ね事業所得に該当することが明らかにされています。
出典:国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/221007/index.htm、および国税庁法令解釈通達「法第35条(雑所得)関係」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/09.htm
なお、この改正案は当初、副業収入が300万円以下であれば一律で雑所得とする内容で公表され、パブリックコメントに7,000件を超える意見が寄せられたことを受けて、帳簿書類の保存があれば収入額にかかわらず原則として事業所得として扱う内容へと修正された経緯があります(国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」に対する意見公募の結果として公表)。
判定の流れを整理すると次のようになります。
### 国税庁の事業所得・雑所得 判定フロー(所得税基本通達35-2)
- [ チェック①:社会通念上、事業と呼べる規模・実態で行っているか ]
・営利性、継続性、独立性を欠く単発の作業 -> 原則【雑所得】
・継続的に営業活動や事業活動を行っている -> チェック②へ
- [ チェック②:その所得に係る帳簿書類を保存しているか ]
・帳簿(会計ソフト・仕訳帳・総勘定元帳等)を保存していない
- > 原則【雑所得】。ただし収入300万円超で事業と認められる事実が
- あれば事業所得として扱われる
・帳簿をきちんと記帳・保存している -> 原則【事業所得】
- [ 例外:帳簿があっても雑所得とされ得るケース ]
・収入が僅少(例年おおむね300万円以下かつ本業収入に対する割合が
- 10%未満)で、赤字が続いており、黒字化のための具体的な取り組みが
- 見られない場合は、営利性を欠くとして雑所得とされることがある
事業所得として認められやすくするための実務ポイント
- 会計ソフト(マネーフォワード、freee、弥生等)や手書きの帳簿で日々の売上・経費を記帳し、取引を裏づける領収書・請求書を保存していること
- 営業活動、商品開発、広告出稿、顧客対応など、利益を出すための事業活動を継続して行っていること
- 赤字が続いている場合でも、値上げや経費削減、集客施策の見直しなど、黒字化に向けた取り組みの記録が残っていること
【現場のリアル】開業届は出したのに帳簿をつけていなくて税務調査で青ざめた話
副業でハンドメイド雑貨の販売を始め、勢いで税務署に開業届だけ提出していた方から聞いた話です。開業届を出しているという安心感から「もう事業所得として認められているはずだ」と思い込み、日々の売上や仕入れの記録はレシートを紙袋にまとめて放り込んでおくだけで済ませていたそうです。数年後、副業の赤字を計上して確定申告をしたところ、翌年の秋に税務署から連絡が入り、帳簿の提示を求められました。慌てて紙袋の中身をかき集めてみたものの、日付順にも整理されておらず、どの経費がどの売上に対応しているのかも本人ですら説明できない状態だったといいます。担当者の前で「これはさすがに事業として帳簿を管理していたとは言えませんね」と指摘され、血の気が引いたと振り返っていました。結果的に一部の経費が否認され、過去の申告を修正することになったそうです。開業届はあくまで届出であって、帳簿の保存という実態が伴っていなければ事業所得の証明にはならないと痛感したという話でした。
3. 自分の副業は事業所得か雑所得か、超具体的な自己診断ステップ

判定基準を読んでも「結局、自分の場合はどっちなのか」が分かりにくいという声は多く聞きます。次の順番で自分の状況を当てはめて考えると判断しやすくなります。
ステップ1、帳簿をつけているかを確認する。会計ソフトへの入力でも、ノートに手書きで日付・取引先・金額・内容を記録したものでも構いません。何も記録がなければ、この時点でまず雑所得側に寄ります。
ステップ2、帳簿があるなら、収入金額と本業収入との比率を確認する。副業の年間収入がおおむね300万円を超えていれば、帳簿があることを前提に事業所得として扱われやすくなります。300万円以下でも、本業収入に対する副業収入の割合が一定以上あれば同様です。
ステップ3、収入が僅少で赤字が続いている場合は、黒字化に向けた行動記録があるかを確認する。値上げ交渉のメール、広告出稿の履歴、新しい販路開拓の記録など、利益を出そうとした形跡が残っていれば、営利性を主張する材料になります。
ステップ4、それでも判断に迷う場合は、確定申告の時期を待たずに税務署の電話相談センターや税理士へ事前に相談する。所得区分は申告してから覆すよりも、申告前に整理しておくほうが手間もリスクも小さく済みます。
4. 帳簿はどこまで細かくつければいいのか
「事業所得と認められるために帳簿が必要なのは分かったが、具体的にどこまで細かく記録すればいいのか」という疑問は非常に多く寄せられます。この点についても国税庁が制度を用意しています。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」では、事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行うすべての方は、収入金額や必要経費に関する事項を記帳し、帳簿等を保存する必要があるとされています。記帳する内容は、売上や仕入れ、経費に関して、取引の年月日、相手方の名称、金額等を記載することとされ、簡易な方法(一定の金額を基準として合計額をまとめて記載する等)で記帳することも認められています。
出典:国税庁「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2080.htm
白色申告であれば、青色申告のような複式簿記までは求められておらず、日付・取引先・金額・内容を記録した簡易な帳簿(単式簿記)で足ります。ノートへの手書きでも、表計算ソフトへの入力でも、会計ソフトへの記帳でも構いません。重要なのは、後から税務署に見せられる形で継続的に記録が残っていることです。
なお、業務に係る雑所得についても、前々年の収入金額が300万円を超える場合は現金預金取引等関係書類を5年間保存する義務があり、1,000万円を超える場合は確定申告書に収支内訳書を添付する義務があります。雑所得のまま申告するとしても、収入規模が一定を超えれば書類保存の負担自体は事業所得とそれほど変わらなくなるため、どうせ記録を残すなら最初から事業所得としての体裁を整えておくほうが合理的です。
保存期間の目安は次のとおりです。
| 区分 | 帳簿の保存期間 | 領収書等の保存期間 |
|---|---|---|
| 青色申告者 | 7年 | 7年(一部書類は5年) |
| 白色申告者 | 帳簿は原則5年(法定帳簿は7年) | 5年 |
5. 損益通算の計算実例、事業所得の赤字で税金がいくら戻るか

正当な事業所得として赤字が出た場合の、具体的な節税シミュレーションです。
【サラリーマンBさん(年収600万円)の事例】
・本業の給与所得: 436万円(所得税・住民税で年間約60万円天引き済み)
・副業の事業所得:▲ 80万円(Web制作事業:売上70万 − PCやソフト等の経費150万)
【確定申告での損益通算】
・通算後の総所得:436万 − 80万 =【 356万円 】に課税所得が圧縮
・本来納めるべき税額:約 44万円 に再計算
---
-> 払いすぎていた差額の【 約 16万円 】が、確定申告後に口座へ現金一括還付される
この還付は、副業が事業所得として認められ、かつ帳簿と領収書が揃っていて初めて成立する計算です。同じ80万円の赤字でも、雑所得と判定された場合はこの16万円は一切戻ってきません。
6. 税務調査で「架空の赤字申告」が否認されたときの重いペナルティ
プライベートの私生活費(家族旅行代、私用スマホ代、生活用品費等)を無理やり副業の経費に計上して赤字を作り、損益通算で税金を取り戻すような申告は、税務調査で否認される対象になります。
【否認された時のペナルティ】
1. 過去数年分の還付金を全額一括で返還(本税の追徴)
2. 延滞税(納付が遅れた期間に応じて課される利息相当分)
3. 悪質と判断された場合の重加算税
4. 本業の会社へ税務署から是正の連絡が入り、社内での信用を失う事態
経費として計上できるのは、副業の売上を上げるために直接必要だった実費のみです。私生活と兼用しているものについては、業務で使用した割合を合理的に按分して計上する必要があります。
【現場のリアル】経費を水増ししようとして思いとどまった話
副業のコンサルティング業で思うように売上が伸びず、確定申告の直前になって「もう少し経費を増やせないか」と考えた方から聞いた話です。自宅で使っている家電や、友人との食事代のレシートまで引っ張り出してきて、経費として計上できないかどうか一枚ずつ検討していたそうです。ところが実際にレシートを並べてみると、業務とはまったく関係のない私的な買い物ばかりで、これを経費として計上したら帳簿の説明がつかなくなると気づいたといいます。仮に税務署から問い合わせが来たときに、家族との外食を「打ち合わせ代」と説明できる自信がまったく持てず、結局その場でレシートの束を封筒に戻したそうです。本人いわく「還付される数万円のために、後から重加算税を取られて会社にまで連絡が行くリスクを背負うのは割に合わないと気づいた」とのことでした。数字を少し盛れば得をするという誘惑は、副業の確定申告をする人なら一度は頭をよぎるものだという話でした。
7. 年末調整書類の書き方
副業で事業赤字が出ている場合であっても、本業の会社の年末調整用紙(基礎控除申告書等)に副業の赤字を書く必要はありません。
本業の年末調整は通常どおり提出して源泉徴収票を受け取り、年明け2月16日以降に税務署へ確定申告書+青色申告決算書(または収支内訳書)を提出して損益通算の手続きを行います。
8. よくある質問(Q&A)
Q1. 開業届を税務署に出していれば、無条件で事業所得になりますか。
いいえ。開業届を出していても、帳簿の保存と事業としての実態(継続的な売上や活動実績)が伴っていなければ、税務調査で雑所得と判断されることがあります。開業届はあくまで届出であり、事業所得を保証する書類ではありません。
Q2. 副業を始めて1年目の初期投資で赤字になるのは普通ですか。
はい。事業立ち上げ1年目にパソコンや機材、開発費などの初期投資で赤字になるのは自然な経過です。帳簿と領収書を整えておけば、1年目の赤字であっても損益通算の対象として認められます。
Q3. 副業の収入が300万円を超えていれば、帳簿がなくても事業所得になりますか。
帳簿書類の保存がなくても、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる客観的な事実があれば事業所得として扱われる余地はありますが、これは例外的な扱いです。帳簿の保存は事業所得と認められるための最も基本的な条件であり、収入額の大小にかかわらず記帳しておくことが安全です。
9. 事業所得として認められるための証拠資料チェックリスト
税務署から「これは副業ではなく単なる趣味(雑所得)ではないか」と疑われた際に提示できる証拠書類です。
【税務署に事業実態を説明するための証拠セット】
1. 会計ソフトから出力した仕訳帳、総勘定元帳、貸借対照表・損益計算書
2. すべての領収書・請求書・納品書(日付・宛名・品名入り)
3. 顧客との契約書、業務委託基本契約書、発注メール履歴
4. 事業用の独自ドメインWebサイト、ポートフォリオ、名刺、パンフレット
5. 事業用の銀行口座通帳および事業用クレジットカードの利用明細
まとめ、帳簿を整えて正当に事業所得の損益通算を活用する
- 損益通算ができるのは「事業所得」の赤字のみ(所得税法第69条、国税庁「No.2250 損益通算」)。雑所得の赤字は相殺できない。
- 事業所得と雑所得の区分は、社会通念上の事業実態と帳簿書類の保存の有無で判定される(所得税基本通達35-2、令和4年10月7日改正)。
- 帳簿は白色申告であれば単式簿記の簡易な記帳で足りるが、継続的に記録を残すことが最低条件になる(国税庁「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」)。
- 本業の年末調整には副業の赤字を書かず、年明けに税務署へ確定申告して損益通算・還付の手続きを行う。
- 生活費の経費への水増しなど、事実に基づかない申告は税務調査で否認され、追徴課税につながる。
正しい税務ルールと帳簿の知識を身につけておけば、副業の赤字も正当な根拠のあるかたちで申告できます。