「会社からストックオプションをもらったけれど、権利を行使したら税金はいつ、いくらかかるのか分からない」
「税制適格とか非適格とか出てくるけれど、自分がどちらなのか契約書のどこを見ればいいのか分からない」
スタートアップやIPO準備企業で働く人から、こうした相談が毎年寄せられる。ストックオプション(新株予約権、以下SO)は株価が上がったタイミングで権利を行使すれば大きな含み益を得られる制度だが、税金のルールは「税制適格」か「税制非適格」かで課税されるタイミングも税率もまったく別物になる。ここを取り違えると、行使した月の給与明細を見て初めて数十万円単位の税額に気づく、といったことが実際に起きる。
この記事では、税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの課税タイミングの違い、給与所得として課税される場合の計算方法、株式を売却した年の確定申告の流れまで、国税庁の公式情報と条文、そして現場で実際にあったやり取りを交えて整理する。
1. 税制適格と税制非適格、課税されるタイミングがまるで違う

税制適格ストックオプションは権利行使時の税金がかからず、税制非適格ストックオプションは権利を行使した瞬間に給与所得として課税される。
会社から付与されたSOが「税制適格」の要件を満たしているかどうかは、契約締結時にすでに決まっている。要件を満たしていれば権利行使時の課税は将来の株式譲渡時まで繰り延べられ、満たしていなければ権利行使時点で経済的利益に対して課税される。この違いが、行使したときに手元の現金が減るかどうかを左右する。
| 比較項目 | 税制適格ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
|---|---|---|
| 権利行使時の課税 | 課税なし(譲渡時まで繰り延べ) | 給与所得として課税(総合課税) |
| 株式譲渡時の課税 | 譲渡所得として申告分離課税 | 譲渡所得として申告分離課税 |
| 年末調整への影響 | なし | 権利行使益が給与に合算され、源泉徴収の対象になる場合がある |
| 確定申告の要否 | 株式を売却した年に必要 | 株式を売却した年に必要(行使時分は会社側で給与として処理) |
| 主な根拠 | 租税特別措置法第29条の2 | 国税庁タックスアンサー No.1543 |
自分のSOが適格か非適格かはどこで確認するか
自分のSOが税制適格かどうかは、会社と締結した新株予約権割当契約書の内容と、次章で説明する法律上の要件を照らし合わせないと判断できない。
会社の担当部署や証券代行が「これは税制適格ストックオプションです」と説明していれば話は早いが、口頭での説明だけを鵜呑みにせず、契約書に記載された権利行使価額・権利行使期間・付与対象者の条件を、後述する租税特別措置法の要件と突き合わせて確認するのが確実である。判断に迷う場合は、会社の経理担当か顧問税理士に契約書を見せて確認するのが一番早い。
2. 税制非適格ストックオプションを行使すると「給与所得」として一気に課税される
税制非適格ストックオプションを行使すると、行使時の株価と権利行使価額の差額が給与所得とみなされ、総合課税の対象になる。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」には、次のように示されています。
『その株式の発行法人と権利を与えられた人との関係が雇用契約又はこれに類する関係に基因してその権利が与えられた場合は、給与所得として課税されます』
また、株式を譲渡した場合には譲渡所得として課税される旨もあわせて示されています。
出典:国税庁「No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1543.htm
給与所得としての課税額はどう計算するか
課税対象になる金額は「権利行使時の株価から権利行使価額を差し引いた金額」に行使した株数を掛けたものである。
たとえば権利行使価額が1株1,000円、行使時の株価が1株5,000円のSOを1,000株行使した場合、差額の4,000円に1,000株を掛けた400万円が経済的利益となり、給与所得として扱われる。給与所得は他の給与と合算して累進課税されるため、所得税と住民税をあわせた税率は所得水準によって最大55%(所得税45%+住民税10%)に達することもある。もともとの給与が高い人ほど、行使益にかかる税率も高くなりやすい。
会社の年末調整・給与での源泉徴収の仕組み
税制非適格SOの行使益は、行使した月の給与に上乗せされる形で会社側の源泉徴収の対象になり、年末調整でもその年の給与総額に含めて精算される。
会社は行使益を給与とみなして源泉徴収義務を負うため、行使した月の給与明細には通常の給与に加えて「経済的利益」や「現物給与」といった名目で金額が加算され、そこに対する所得税が天引きされる。年末調整の書類に自分で書き込む項目があるわけではなく、会社側の給与計算の中で自動的に処理される点は、税制適格SOとの大きな違いである。
#### 【現場のリアル】権利行使した月の給与明細を見て青ざめた話
上場企業のグループ会社に勤める30代のエンジニアから聞いた話である。数年前に付与されていたSOのうち税制非適格の分を行使し、株価が付与時より大きく上がっていたこともあって、行使益は帳簿上で200万円を超えていた。特に何も意識せず、翌月の給与振込を確認したところ、いつもの手取り額から十数万円も少ない数字が表示されていて、最初は振込ミスかと思ったという。
給与明細を開くと、見慣れない「新株予約権行使益」という項目が加算され、その分の所得税と住民税相当額がまとめて天引きされていた。経理に問い合わせると「行使した月の給与としてまとめて課税されるので、翌月の手取りが一時的に減ります」と説明され、事前に案内メールを読み飛ばしていたことに気づいたそうだ。「株を売ってもいないのに、給与から税金が引かれるとは思わなかった」と振り返っていた。
結局その月は生活費の一部をボーナスの残りで補填してしのいだが、「行使する前に、その月の手取りがどれだけ減るか自分で試算しておけばよかった」と話していた。
3. 税制適格ストックオプションは行使時が非課税、その理由と要件

税制適格ストックオプションは、租税特別措置法第29条の2の要件を満たす契約であれば、権利行使時の経済的利益に対する課税が株式売却時まで繰り延べられる。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」には、次のように示されています。
『権利行使時の経済的利益については課税を繰延べ、特定株式の譲渡時にその経済的利益とキャピタルゲインを合わせて一般株式等に係る譲渡所得等又は上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象とするもの』
特定株式の取得価額(取得費の額)は、権利行使時の時価ではなく払込価額(権利行使価額)とする旨もあわせて示されています。
出典:国税庁「No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1540.htm
国税庁は正式にはこの制度を「ストック・オプション税制」と呼んでいるが、実務では「税制適格ストックオプション」という呼び方が広く使われている。呼び方が違っても指している中身は同じである。
税制適格の要件(対象者・権利行使価額の限度額・権利行使期間)
税制適格として扱われるには、権利行使価額の年間合計額が一定の上限を超えないこと、権利行使期間が付与決議日から2年経過後10年以内であることなど、租税特別措置法第29条の2に定める複数の要件をすべて満たす必要がある。
【e-Gov法令検索・1次情報】
租税特別措置法第29条の2に定める要件のうち、権利行使価額と権利行使期間については次のように定められています。
『当該新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと』
『当該新株予約権の行使は、当該新株予約権に係る付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならないこと』
対象者についても、株式会社の取締役・執行役・使用人である個人(大口株主やその特別関係者を除く)、および一定の要件を満たす社外高度人材などに限定されています。
出典:租税特別措置法第29条の2(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
このほかにも、権利行使価額が契約締結時の株価以上であること、譲渡制限が付されていることなど細かな要件があり、いずれか一つでも外れると税制非適格として扱われる。
令和6年度税制改正で限度額が広がった会社もある
令和6年度の税制改正により、設立から間もない企業が付与するSOについては、権利行使価額の年間合計限度額が1,200万円から引き上げられている。
複数の税理士法人・会計事務所の解説によれば、設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与する新株予約権は年2,400万円まで、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満の会社が付与するものは年3,600万円まで、それぞれ限度額が引き上げられたとされている(設立20年以上の会社は従来どおり1,200万円)。ただし、引き上げの適用には会社の設立年数や上場状況など細かな要件があり、毎年の税制改正で条件が変わる可能性もあるため、自分のSOがこの引き上げの対象になるかどうかは、金額を鵜呑みにせず会社の担当部署か顧問税理士に確認してほしい。
#### 【現場のリアル】自分のSOが「適格」か「非適格」か、契約書を読み返した夜
創業4年目のITベンチャーに勤める20代の女性から聞いた話である。入社時にSOを付与されていたが、当時は「株価が上がったらお得な制度」という程度の理解で、契約書の細部までは読んでいなかった。同期が退職時にSOを行使すると聞いて自分も行使を検討し始めたとき、初めて「税制適格かどうかで税金の扱いが全然違う」という事実を知り、慌てて契約書を引っ張り出したという。
平日の夜、ワンルームのデスクで契約書のPDFと国税庁のページを何度も往復しながら、権利行使価額の年間上限や行使できる期間の条件を一つずつ照らし合わせた。契約書には「税制適格」とは明記されておらず、条件を満たしているように読めるものの確信が持てなかったため、翌日人事に問い合わせたところ「税制適格として設計しています」と回答があり、ようやく安心できたそうだ。
「制度の名前だけ知っていても意味がなくて、自分の契約書がその条件を満たしているかまで確認しないと、行使した後に慌てることになると分かった」と話していた。
4. 未上場株式のSOで特に注意すべき「税金はあるのに現金がない」リスク
税制非適格SOを未上場のうちに行使すると、株を売って現金化できないまま、行使時点の含み益に対する税金だけを別途用意しなければならないことがある。
未上場株式ならではの「売れないのに課税される」問題
未上場株式には自由に売買できる市場がないため、権利行使と同時に株を売って納税資金を作る、という選択肢がそもそも存在しない。
未上場株式は自由に売却できる市場がなく、行使してすぐに現金化することはできない。税制適格SOであれば行使時の課税はないためこの問題は起きにくいが、税制非適格SOの場合は行使した時点の含み益に給与課税がかかるため、株は売れないのに納税資金だけ先に必要になる場合がある。行使前に、自分のSOが適格か非適格か、行使にどれだけの現金が必要になるかを必ず確認してほしい。
実際に起きた資金繰りのトラブル
税制非適格SOを未上場のうちに行使すると、株を1株も売っていない段階で数百万円単位の税金だけが先に発生することがある。
#### 【現場のリアル】未上場ベンチャーで行使したら、売れない株に納税義務だけが乗った話
未上場のスタートアップに役員として参画していた40代男性の話である。数年前に付与されていたSOのうち一部が税制非適格の条件だったことに気づかないまま、資金に余裕があったタイミングで権利行使に踏み切った。株価は付与時よりかなり上がっており、行使益は数百万円規模になっていたという。
行使した年の年末調整で、この行使益が給与に合算されて課税されることを経理から知らされたときは「まだ株を1株も売っていないのに、なぜ税金だけ先に取られるのか」と納得がいかなかったそうだ。未上場株式のため証券口座で売却して納税資金を作るという選択肢もなく、結局は貯蓄を取り崩して納税分をまかなうことになった。
「上場して初めて現金化できると思っていたが、非適格の場合は行使した時点で税金の話がついてくると知らなかった。行使する前に顧問税理士に相談していれば、税制適格の分から先に行使するなど順番を考えられたはずだ」と振り返っていた。
5. 株を売却した年は、適格・非適格を問わず確定申告が必要

SOを行使して得た株式を売却した年は、税制適格・非適格にかかわらず、譲渡益に対して申告分離課税で確定申告を行う必要がある。
【国税庁の公式見解・1次情報】
国税庁タックスアンサー「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」には、株式等の譲渡による所得は他の所得と区分して税額を計算する申告分離課税の対象であり、税率は『20%(所得税15%、住民税5%)』であることが示されています。これに加えて、平成25年から令和19年(2037年)までの各年分は、復興特別所得税として基準所得税額に2.1%を乗じた額を所得税とあわせて申告・納付する必要があるため、所得税・復興特別所得税・住民税をあわせた実効税率は20.315%になります。
出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
譲渡所得の計算方法は適格・非適格で取得費が違う
譲渡所得は「売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額」で計算するが、取得費の考え方が税制適格と非適格で異なる。
税制適格SOの場合、前述の通り取得費は権利行使価額(払込価額)そのものであり、売却時にまとめて「行使時の経済的利益+株価上昇分」に課税される。税制非適格SOの場合は、行使時点ですでに給与所得として課税済みのため、取得費は行使時の時価となり、売却時に課税されるのは行使後の値上がり分だけになる。二重に課税されているわけではなく、課税されるタイミングが分かれているだけである。
確定申告の具体的な手順
証券会社から交付される年間取引報告書をもとに、国税庁の確定申告書等作成コーナーで株式等の譲渡所得を入力すれば、税額が自動計算される。
- 証券会社から交付される「特定口座年間取引報告書」を用意する。
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー」で「株式等の譲渡所得等」の入力画面を開く。
- 売却金額、取得費(権利行使価額または行使時の時価)、譲渡費用を入力する。
- 税制非適格SOの場合は、行使した年の源泉徴収票の内容とあわせて所得を確認する。
- 申告内容を確認し、e-Taxで送信するか書面で税務署に提出する。
特定口座(源泉徴収あり)で株式を売却した場合は、原則として確定申告不要とされているが、他の株式取引の損失と損益通算したい場合や、複数の証券口座をまたいで取引している場合は確定申告をしたほうが有利になることもある。判断に迷う場合は税務署か税理士に相談してほしい。
6. よくある質問(Q&A)
権利放棄した場合は課税されず、年末調整の書類には基本的に何も書かず、未上場株式のSOはNISA口座には入れられない。
SOの権利行使・確定申告に関するよくある質問
行使や申告の場面でつまずきやすい3つの疑問を、Q&A形式で解説する。
#### Q1. SOの権利を行使せずに放棄(失効)した場合、税金はかかりますか。
かからない。権利を行使しなければ経済的利益そのものが発生しないため、課税対象になる所得もない。放棄・失効した年に何か手続きをする必要もない。
#### Q2. 税制適格SOを行使しただけの年は、年末調整の書類に何か書く必要がありますか。
基本的に何も書く必要はない。税制適格SOは行使時点で課税されないため、会社の年末調整に反映される項目もない。株式を売却した年になって初めて、自分で確定申告をすることになる。税制非適格SOの場合は、行使益が給与として会社側の年末調整に組み込まれるため、従業員が自分で年末調整の用紙に記入する項目は基本的にない。
#### Q3. SOを行使して取得した株式は、新NISA口座に移せますか。
移せない。SOを行使して取得した株式は特定口座または一般口座で管理され、新NISAの成長投資枠に直接移管する制度は用意されていない。NISA口座で保有するには、株式を売却したうえで別途NISA口座から買い直す必要がある。
まとめ:行使する前に、適格か非適格かを必ず確認する
税制適格SOは行使時が非課税で、売却した年にまとめて申告分離課税として確定申告する。税制非適格SOは行使した時点で給与所得として課税され、会社の年末調整・源泉徴収の対象になる。
- 自分のSOが税制適格か非適格かは、契約書の内容を租税特別措置法第29条の2の要件と照らし合わせないと分からない。
- 税制非適格SOを行使すると、行使時の株価と権利行使価額の差額が給与所得として課税され、行使した月の給与から天引きされる。
- 未上場のうちに税制非適格SOを行使すると、株を売れないまま納税資金だけ必要になる場合があるため、行使前の資金計画が欠かせない。
- 株式を売却した年は、適格・非適格を問わず申告分離課税で確定申告が必要になる。
SOの税金は行使のタイミング一つで手取りが大きく変わる。行使する前に契約書と自分の資金状況を確認し、判断に迷ったら顧問税理士に相談してほしい。株を売却した年の確定申告や、それ以外の年の年末調整の手続きをスマホで手早く終わらせたい方は、完全無料で使える「書けた年末調整」もあわせてご検討ください。